【「パーム・スプリングス」評論】盛りだくさんな要素で楽しませつつ、本質的には現代的で勇猛果敢な人間ドラマ

2021年4月11日 20:30


「パーム・スプリングス」
「パーム・スプリングス」

ロサンゼルスから東におよそ180キロ。ハリウッド映画でしばしば見かける発電用の風車群の先に、パームスプリングスはある。かつてはシナトラやプレスリーも別荘を構えた砂漠のリゾート地。本作はそこで開かれたハッピーな結婚式の物語だ(ただし実際の撮影はLAより北東のパームデイルとサンタクラリタ周辺で行われた)。

ところが参列者のナイルズはハッピーじゃない。記憶をたどれないくらい長い間、何度も何度も同じ一日を繰り返す《タイムループ》にハマっているからだ。あらゆる手を試し、もはや抜け出せないと諦めたナイルズは、永遠に続く他人の結婚式の一日をちゃらんぽらんに過ごしていた。ところがあるきっかけで花嫁の姉のサラも同じループにハマり込む。奇妙な運命の道連れとなったふたりは次第に惹かれあうように……。

本作は「恋はデジャ・ブ」、「オール・ユー・ニード・イズ・キル」、「ハッピー・デス・デイ」といった“タイムループ映画”の系譜に連なるロマンチックコメディだ。マックス・バーバコウ監督と脚本家のアンディ・シエラは、同ジャンルのトリッキーな要素を活かして脚本を精緻に磨き上げた。随所に伏線が張り巡らされ、二度、三度観るたびに新しい発見が得られることに脱帽せずにいられない。

一方で、「タイムループ+ラブコメ」みたいな短絡的な説明では言い表せない映画でもある。1960年代の名作「卒業」から大きな影響を受けているのだが、ビジュアル以上に繋がりを感じるのが、人生の選択を避ける宙ぶらりんな主人公像。一見陽気なマイルズも、メンタルの問題が山積みのサラも、本質的に人との繋がりを上手く保つことができず、自分の居場所を見つけられないでいる。タイムループから抜け出せないという設定自体が、彼らの心象風景を象徴しているのだ。

そんなふたりが恋に落ちるのはラブコメの定番として、「お互いの欠落を埋めてくれるベターハーフ」として描いていないのがいい。寄る辺ない漂泊に埋没するでも、愛こそすべてと謳い上げるでもない。その先へ踏み込んで、他人との関係と自分自身を探求するアプローチは非常に現代的だ。ファンタジー、コメディ、SFなど盛りだくさんな要素で楽しませつつ、本質的には真の意味で勇猛果敢な人間ドラマだと思う。

最後にもうひとつ。主演のアンディ・サムバーグクリスティン・ミリオティが本当に素晴らしい。特にミリオティは今後ハリウッドで絶対に無視できない存在になっていくはずなので、本作の名演にぜひ瞠目していただきたい。

(村山章)

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