不動産会社を経営する松永(木下)には、週に一度だけ社長という社会的地位も肩書も忘れて過ごす秘密の隠れ家があった。ある夜、松永は、その隠れ家で文子(中山)という少女に出会う。文子の不思議な魅力に惹かれた松永は、文子と深い関係に落ちていく。
――“不倫”を描いていますが、文子という謎めいた存在のせいか、SF映画を見ているような奇妙な印象を受けました。
木下:僕が最初に読んだ時の印象は、よくできた純愛っぽいシンプルな恋愛物語だなという感じでスラっと読めました。ただ、SFっぽいということで言うと、(中山を指して)この人(=文子)はE.T.ですからね(笑)。突然、他人の家に無断で不法侵入してきたわけですから。
中山:(笑)。私も最初にお話をいただいて読んだときは、純愛のお話だなって思いました。ただ、(2人の関係に)依存が入ってくるじゃないですか? そうなると、単なる純愛だけじゃ語れないなと。
――文子という女性を理解できましたか?
中山:(即答で)できないです(笑)! 文子自身を理解はできないんですけど、恋愛感情というのは普遍的なものだと思ったので、そこに関してはわかる部分も多々ありました。
木下:僕も理解はできないですけど、男と女ってそんな理屈がいるかというとどうなのか? そういう意味では、当然のことが描かれていたと思います。ただ、今の時代、この松永という人は結構な立場の人なんで「ハニートラップか?」というのは危惧したでしょうね(笑)。でも、(文子の)魅力が勝っちゃって、深みにはまって、さらには犯罪まで……。それをすごくあっさりと描いてるんですよね。まさに
江戸川乱歩ですね。
――お互いの印象、共演された感想を教えてください。
木下:印象は、初対面と撮影が終わった後で全く違っていて、つまり、始まる前は嫌いだったんだけど(笑)、終わって好きになりましたね。最初はね、苦手なタイプで。
中山:私も嫌いなタイプでした(笑)。
木下:いや、いいんよ、それは全然(笑)。
中山:それは冗談ですけど、それまでお会いしたことがなかったので、作品やバラエティでの“怖い”イメージがあったんです。怒られるんじゃないかな……と。監督に「(木下は)怒ったりしませんか?」と確認したら「いや、怒るよ」と言われて「終わった……」と思ってました。
いざ、顔合わせをしたら……怖くて絶望しました(苦笑)。でも、現場ですごくいろんなことを教えてくださるんですよ。映画は初めてだったけど、自分が出ないシーンでも見ててくださって、すごく優しかったです。
木下:窪田(将治)監督とは何本かやっていて、乱歩の作品も2作目なので、そこは特に何も話してないんですけど、やはり気になるのは、相手役がどんな人物で、大丈夫なのかということ。こういう映画なので脱走したりしないか? よくあるんですよ。肌をさらす役柄なので、現場で「これ以上は……」と会社からNGが出たり。そういうことに僕らはこれまでも傷ついてきたので、「ちゃんとした人を呼んでほしい」という話はしましたね。
中山:クランクインの前に、ほうかさんが本読みに付き合ってくださったんです。
木下:自主練を自分から申し出て、自分で音楽スタジオまで予約したんですよ、この人。それは異例で、そんな人は見たことなかったので、こういう姿勢は信頼が置けるなって思いました。
中山:脚本を読むのは得意じゃないんですけど、そこで結構、いろんな話のすり合わせなどをしてくださったので、現場に入ったらそこまで話すこともなかったですね。
木下:そこで脚本にどう手を入れるか、「これを監督に提案してみよう」という話もして、実際、そういう提案はほとんど通りましたね。低予算の作品で撮影でそこまで粘ることもできないから、それはよかったですね。
中山:実際、撮影は一瞬でした(笑)。「これでいいのかな?」と思うくらい。
――“裸”でいる時間が非常に長い映画でしたが、中山さんはこの役を引き受けることに迷いや不安はなかったんでしょうか?
中山:オーディションだったので、その段階からそういうシーンがあることはわかっていたのですが、いざ受かったら、嬉しかったんですけど100%の覚悟は決まっていなくて「どうしよう?」という気持ちはありました。ただ、脚本を読んだら「絶対にやりたい!」と思えて覚悟が決まりました。ただ、読んでて脱ぐところが多いなぁとは思いました(笑)。あと、撮影当日になって「あれ? ここって脱ぐんだっけ?」というところもあって。ちゃんと脚本を読んでたはずなんですけど、こんなこと言うと「しっかり読んでないのか!」って言われちゃいそう(苦笑)。
木下:最初の顔合わせの日に食事に行って、そこで脅しじゃないですけど、強調したのは「本に書いてある以上のことが起こりうる。それが現場だ」ということ。これ以下じゃなく、以上だと考えて現場に来てほしいと。
中山:「ただのキスじゃないよ」って言われました。
木下:「もうベロベロいくで」って(笑)。そのつもりで来てくださいと。それで「できますか?」と聞いたら「できる」って言ってくれたんです。いろんな作品を見てて、「あぁ、ここは何かの都合でこれ以上はできなかったんだな」と見受けられる作品もあるじゃないですか。そういうのは一番嫌いだし、今回はそういうことはなかったですね。この人、何もなくても裸でウロウロしてました(笑)。
中山:ちょっと! そういう人と思われますから(苦笑)! ほうかさんだって、脱ぐシーンじゃないのに前貼りを着けようとしてたじゃないですか(笑)。
――木下さんは、“名バイプレイヤー”と言われることも多いですが、今回、主演を張るということでそこに関していつもと違う思いはありましたか?
木下:主演ということよりも、僕は普段9割がた嫌味な役なので、この作品で嬉しかったのはそういう役ではないということでした。浮気はするけど(笑)、人間性は穏やかで、なかなかできない人物像だったので大切に演じたいなと思いました。加えてなかなか来ない恋愛ものだったので、そこはダブルで嬉しかったですね。
――中山さんは完成した映画をご自身で見ていかがでしたか?
中山:「もう1回、やり直したいな」と思うくらい、全然できてなくて……。
木下:こういうこと言う人は伸びるんですよ。何本映画に出ても、自分で見て「ここやり直せないかな」と思う。満足しないでクヨクヨしている人は僕は好きですね。「完成している」と思わないことが進歩するために必要なことだと思います。
――中山さんは現在25歳ですが、ちょうど木下さんがそれくらいの年齢の頃は、吉本新喜劇を退団し、俳優になろうと上京されています。先輩として、これから成長していくために中山さんに対してアドバイスはありますか?
中山:(姿勢を正して木下の方に向き直って)ぜひお願いします!
木下:極力、オファーを断らずに参加することですね。エキストラに毛が生えたような小さな役でも、急な話でも、それを見てくれている人は必ずいるので、その先に何かがあるんですよ。僕も、そうやって大物の俳優さんに認めていただいたり、いろんなものを獲得してきました。つまんない作品に出る必要はないけど、学生の卒業制作であろうとそこから伸びてくる人もいっぱいいますからね。誰が撮るのか、どんなシナリオか、誰が出るのか、何か引っかかることが一つでもあるなら出るべきだと思います。
中山:わかりました!
――中山さんは今後、どんな女優になりたいと考えていますか?
木下:そりゃ売れっ子女優でしょ?
中山:はい、売れっ子になりたいです(笑)。でも、ほうかさんみたいに長くお芝居を続けていけたらいいなって。
木下:売れたら後は落ちるだけだからね。そうならないように長く継続することが大事なのよ。
――木下さんは、50代を過ぎてから、バラエティ番組などでのインパクトもあって一気に知名度も上がりブレイクしましたが、そこに戸惑いや恐怖はなかったのでしょうか。
木下:ありましたよ。何度も「もう俳優やめよう」と思いましたもん。理由はまず、一時期にワーッと仕事が来たことによるオーバーワーク。それから、顔をさらすことの恐怖ですよね。誰かが常に見てて、発信されちゃう世の中ですから。「やめよう」と思ったし、鬱みたいな状態にもなったんですけど、次第に慣れちゃいましたね。逆にと言いますか、僕は今でもファミレスでも居酒屋でも普通に行きますけど、そこでサインでも握手でも進んでやるようになりました。開き直りですね。
中山:慣れちゃうものなんですか?
木下:それは人それぞれやね。
――中山さんにとっては、演技面だけでなく俳優としての在り方をも教えてくれるいい師匠に出会えましたね。
中山:はい!
木下:だいぶ、僕が洗脳してますね(笑)。
「裸の天使 赤い部屋」は4月2日から東京・シネマート新宿にて2週間限定レイトショー。