【「マ・レイニーのブラックボトム」評論】ブルースのうねりと若き俳優が遺した名演とが絡み合う濃密な情景
2021年3月14日 08:30

昨年8月、チャドウィック・ボーズマンが逝去した。彼の演じた数々のレジェンドに比べると本作の役どころは小さな存在に思える。だが「Black Lives Matter」を経て大きなうねりの渦中にある今、ボーズマンが病を押して挑んだ最後の役柄“トランペット吹きのレヴィ”がアフリカ系アメリカ人文化を代表するキャラクターとして記憶に刻まれるのは確実だろう。
原作はオーガスト・ウィルソンによる戯曲シリーズのひとつ。かつてデンゼル・ワシントンが主演、監督を務めた「フェンス」(16)もこの中の一作にあたるが、今回は彼がプロデュースに徹し、ブルースの女王がシカゴのスタジオに招かれ、依頼主やバックバンドとすったもんだを繰り返しながらレコーディングを行う“たった数時間の人間模様”を濃密に描く。
なぜこれがアフリカ系アメリカ人文化にとって重要なのか。それを理解する上では、こちら側から率先して彼らの目線へと飛び込んでいく必要がある。そうやって初めて、バンドメンバーが交わすリズミカルな言葉の中に、彼らのルーツや人生観、日常的な差別、搾取、暴力、さらには「我々は何者で、どこへ向かうのか」という精神性までもが星屑の如く散りばめられていることに気づくはず。
そこへ“マ・レイニー”が到着すると緊張とうねりは最高潮に達する。彼女の威厳たっぷり、いや、威圧的で高慢とも言える要求の数々はかなり強烈だ。かと思えば、なぜ自分がそのように振る舞うのかという心境が赤裸々に語られ、彼女の一側面ばかりを見つめていた我々の固定観念は大きく揺さぶられる。
一方の“レヴィ”も複雑なキャラクターだ。彼は天下を取るという野心を抱きつつ、しかし過去の記憶が心に影をもたらしている。その上、“靴”や“扉”というメタファーを挟み込むことで他のメンバーとの生き方や考え方の違いは際立ち、一見するとシンプルな本作は、多様性と多面性を伴って奥深さを増していく。こういったリアルな声によって織りなされた映画が生まれること自体がマイノリティにとって一つの大きな達成であるし、彼らの目線に寄り添うことは観る側にとっても意義深い機会となろう。
そしてエンドクレジットで胸をよぎるのはやはりボーズマンのことだ。キャリアを通じての影響力、ひいては本作に注目が集まることによって、映画界は多様性と尊厳を持って進化していくはず。その意味で、彼は文化的なヒーローでもあったことをいま改めて強く噛みしめたい。
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