カンヌで絶賛の愛の映画「燃ゆる女の肖像」監督、元恋人を主演に「彼女に新しい楽譜を与えたかった」
2020年12月3日 16:00
同性同士や身分違いのふたりが公にカップルになることが許されなかった18世紀フランスで、恋を知らなかった貴族の娘、そしてその娘の見合い用の肖像画を依頼された画家。惹かれあったふたりの秘めた関係を、繊細かつ情熱的に描き上げ、第72回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞を受賞した「燃ゆる女の肖像」が、12月4日から公開される。セリーヌ・シアマ監督に話を聞いた。
「海、そしてごつごつとした岩の浜辺があるブルターニュはとても想像力をかきたててくれる場所。フランスでありながらアングロサクソンで、英国を思わせる部分もあり、ゴシックロマンを想起させる」という、神秘的なケルトの信仰も残る海辺の町ブルターニュが舞台。主人公のふたりを画家とモデルという設定にした理由は「この映画では二重にお互いを見つめ合う、視線を送るということを描きたいと思いました。肖像画を描くという意味で芸術家がモデルを見つめているのと、恋愛感情も含めて相手を見つめるという二重構造が欲しかったのです。仕事として肖像画を描いているシチュエーションというのはとても映画的で、描く人、描かれるという構造がベストではないかということでこの設定にしました」と解説する。
自身のセクシャリティーをカミングアウトしており、本作では画家のマリアンヌ役のノエミ・メルランとともに、元パートナーのアデル・エネルを、初めて愛の喜びを知る貴族の娘エロイーズ役に起用した。個人的な感情や感傷を作品に反映させることはあるのかと問うと「自分の感情というよりも、自分の愛に対するビジョンが反映されていると思います。それは知的なものだったり、自分の経験からくるものでもありますが、対等な関係であり、決して相手を支配するのではなく、自己を解放してくれる関係性というのが自分の信じる愛に対するビジョンです。そういう自分の考えが詰まっているからこそ感動を呼べるのかもしれません。自伝的なものでなくても、自分の心の内にはこういう考えがあるということが反映されているという意味では、この映画には内面的なものが描かれていると言えると思います」と語る。
多くの観客が涙を禁じ得ないであろう感動的なラストシーン、そして、今作で互いにプロフェッショナルとして対峙したエネルとの仕事を振り返る。
「アデルと一緒に仕事をしたいと考え、この映画はオーダーメイド的に、彼女に新しい楽譜を与えてあげたいと思って書いた脚本です。このラストシーンは脚本の中で最初に書いたものでした。映画全体がこのシーンに向かって進んでいるといえる最も重要なシーンであり、私の人生の中でも最も撮影が大変なシーンだったとも言えます。3分間1ショットになっていますが、狭い劇場という限られた空間の中でカメラを動かすのも大変で、アデルもいいパフォーマンスをしてくれたので、この場面が活きたと言えるでしょう。こういうシーンを撮るために私は映画を作っています」
「あの場面で、自分はアデルのそばにはいられなかったのですが、撮影前に彼女に伝えたのは、ただ音楽を心から堪能して、感動して、悲しみも思い出し、最後には幸せな表情を見せてほしいということです。この映画でそれまでエロイーズが経てきた全ての感情をこのシーンの中で表現してほしいとだけお願いしました。どのタイミングでどう……ということまでは伝えておらず、あとは彼女のタイミング、彼女の役作りでああいう風に演じてくれました」
そして今作は、女性監督として初めてカンヌのクィア・パルム賞を受賞など世界中で絶賛され、キャリアの大きな転機になった。「カンヌでの受賞が大きなトランポリンのような存在となり、そこから1年かけて様々な国で上映され、観客の皆さんと触れ合って、色んな国の皆さんが受け入れてくださり、大きな映画祭の賞も多くいただくことができました。私の作品の注目度が上がったことは大きな変化でしたし、多くの人にシェアされ文化的なものとして受け入れられたことを嬉しく思います。この映画はまだ色々な国を旅している途中だけれど、賞を受賞したことで勢いをつけてくれたと感じています」
また、LGBTを多角的な視点で捉えて描く作品が制作され、観客の理解が深まってきている昨今の流れについては「そういった作品が増えてきていることは喜ばしく思います。TVドラマなどでは増えてきた印象は受けていますが、映画ではまだそれほど数は多くはないと思います。革命的に変化が起こっているほどではなく、現代を描く上で必要ということだと思います。しかし、すべきことがなされていて、正しい方向に向かっているとは感じますので、その点はうれしいです」と自身の考えを述べた。
「燃ゆる女の肖像」は、12月4日からTOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国で順次公開。
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