【パリ発コラム】どこまでがリアル? フランス在住者も語りたくなる「エミリー、パリへ行く」

2020年11月29日 11:00

パリを舞台にした話題のラブコメ
パリを舞台にした話題のラブコメ

10月末からほぼ一カ月に及ぶロックダウンにあるフランスでは、ストーリミング加入率が急増している。そんななかでいま話題なのが、「セックス・アンド・ザ・シティ」のクリエイター、ダーレン・スターが手掛けるNetflixの新ドラマシリーズ、「エミリー、パリへ行く」だ。シカゴの広告代理店で働くエミリーが、妊娠した同僚に変わって急きょパリのポストに赴任し、ハプニングに満ちたパリ生活を送る物語。SATCと「プラダを着た悪魔」を足して割ったよう、と言われる本作が話題の理由は、エミリーのゴージャスなパリ生活とパリジャンの描写が、ステレオタイプで誇張だらけとフランス人から非難囂々だからである。

おそらく、いまパリに住んでいる外国人で、海外の友だちから、「このドラマのパリ生活ってどこまでがリアルなの?」という質問を受けている人は、けっこういるのではないか。わたしもその一人だ。「パリはあんなにイケメンばかり?」(ノン!)、「エミリーと友だちになる面倒見のいいカミーユのように、パリジェンヌってあんなに気さく?」(ノン!)、「職場の不倫はあり?」(ウイ)等々。で、率直にどうかと言えば、全体的にステレオタイプとリアルの混合という印象である。

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もちろんこれはフィクションのコメディで、しかもSATC制作陣とあれば(あのシリーズにリアルを求める人はいるだろうか)、そもそもリアルを期待する方が筋違いとも思える。むしろアメリカ人のパリジャンに対する、愛憎交ざったイメージ(フランス人のアメリカ嫌い。フランスでは若い女性より熟女がモテて、彼女たちは深いスリット入りのセクシーな洋服をつねに着こなし、愛人を持つなど)を、笑って楽しむというのが妥当な見方だろう。

もっとも、明らかな間違いがまざっているのは頂けない。たとえば、エミリーの嫌みな女上司がオフィスでタバコをすぱすぱという設定(フランスではいまやオフィスも一般的に禁煙)、あるいはエミリーがアパルトマンの屋根裏(シャンブル・ドゥ・ボンヌ/かつてブルジョワが雇っていた使用人のための部屋)に住んでいると言いながら、実際は最上階ではなく一階下であること(もちろん、部屋も屋根裏ほど狭くはない)。またエミリーの関わる香水の広告の撮影で、白昼アレクサンドル3世橋をオールヌードのモデルに歩かせ、それを男たちがみとれるという設定が出てくるが、これはいかに撮影と言えどあり得ないし、調香師が「彼女は服ではなく香水を纏い男たちを誘惑する。それが彼女のパワー」と説明するのは、#MeTooの時代にデリカシーが欠けているというもの。そして最大のポイントは、エミリーはフランス語が喋れない(グーグルの音声翻訳をたびたび使用する)、にもかかわらず、奇跡的に仕事で成果を納めていくこと。

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わたしはむしろ、エミリーが毎日着せ替え人形のように、全身派手なブランドに身を包み出社していることに、目を楽しませられつつも、違和感を感じずにはいられない。というのもフランスでは、ココ・シャネルの名言(「流行は色あせるが、スタイルは普遍」)にもあるように、流行を追いかけるのはお洒落とはみなされず、自身のスタイルを持っていることこそが、憧憬の眼差しを浴びるからだ。(しかも車で出社しているわけでもないのに、こんな派手な格好でスリに狙われないか、という方が心配)。まあこれも、エミリーのSNS中毒とともに、フランス人がアメリカ人を嘲笑する理由とした、制作陣の自虐的ユーモアと思えばいいのかもしれないが。

その一方で、「こういうシチュエーションあるある」というところも少なくない。たとえばカフェで隣のテーブルの人と話が弾み、知り合いになったり(エミリーのようにその夜を共にするかは別として)、うっかり海外の電気製品をそのまま繋いでショートさせたり(といっても本作のように建物全体が停電になるわけではないが)、スノッブなインテリが他の世界の人々を見下したり。

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また「ルーブル美術館にベッドを持ち込めるのはビヨンセだけね。ビヨンセはモナリザよりパワーがあるのよ」(ビヨンセはJAY-ZとルーブルでPVを撮影した)といった皮肉なセリフも笑えると同時に、カフェ・フロール、エッフェル塔、モンマルトルといった定番ランドマークのみならず、アトリエ・デ・リュミエールのような最近話題のスポットも抜かりなく網羅していて、楽しい。

ともあれ、こうして書き連ねるとネタは尽きないほど、ああだこうだと人と語り合いたくなる本シリーズ。じつはそれこそが制作陣の本当の狙いだったのではないかと思える。(佐藤久理子)

(映画.com速報)

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