【「セノーテ」評論】ドキュメンタリーなのに、ファンタジーであり、アートでもある不思議な映画
2020年10月2日 20:00

本編が始まって5分。目の前には、どんなドキュメンタリーとも違う、どんな日本人監督の映画とも違う、不思議な映像が広がっています。
いや、不思議というより不気味。そもそも、何が映っているのかよく分かりません。獣の声なのか人間の声なのか、あるいは別のものなのか。謎のサウンドが乗った不気味な映像。
やがて、カメラが水の中を撮っていることが分かり、少し安心します。泳ぐ魚、水面に浮かぶ木の葉、屈折する光……。
そして、カメラが地上に転じると、天井には丸い穴が空いていて、空が見えます。そこが、洞窟の底にある湖だとようやく分かります。
「セノーテ」というのは、メキシコのユカタン半島に点在する、洞窟内にある井戸や泉のことで、マヤ文明の時代には、人々の唯一の水源であり、いけにえを捧げる儀式に使われる場所でもあったそうです。つまり、飲料水を調達する場所であり、水浴をする場所であり、祈りや、時には命を捧げる場所。
その、古代文明の時代から今に受け継がれる命の泉、セノーテの水中に潜ってカメラを回したのが、本作の監督である小田香。カナヅチなのに、この映画を撮るためにダイビングのライセンスを取得したというから凄い。
水中の映像は、常に揺れています。酔いそうになるかと思いきや、意外にも心地よさを覚えます。しかしそのゆらゆらした映像の傍らで、セノーテに入ったまま生還しなかった人たちの物語が次々に語られていきます。
一転、水を出たところに映る素朴な顔たち。それは、ユカタン半島に暮らす人々を8ミリフィルムで撮影した映像。得も言われぬ、ほのぼのとした雰囲気を映画にもたらしています。
1960~70年代にタイムスリップしたかのような、サイケデリックでアナログな映像に、少女のささやき声によるナレーションが重なり、神秘的な陶酔感を誘います。映像に乗っかるサウンドには、実に非凡なセンスを感じます。
これは、映画というよりアートです。ドキュメンタリーなのに、ファンタジーであり、アートでもある不思議な佇まい。
水中のシーンは、ほとんどが数分に及ぶワンシーンワンカットです。眠くなる人もいるかも知れませんが、本編は75分。睡魔を押さえ込んで完走しましょう。
関連ニュース






映画.com注目特集をチェック

ミッキー17
【史上最悪の“ブラック仕事”爆誕】転職したら“死ぬ→生き返る→死ぬ→生き返る”…無限労働だった話
提供:ワーナー・ブラザース映画

日本の映画料金は高すぎる…!?
【そんな人に朗報】衝撃の価格破壊!! 2000円→750円になる“神・裏ワザ”教えます
提供:KDDI

「イノセンス」4Kリマスター版
【いま観ずに、いつ観る?】公開20周年記念、劇場“初”公開!“究極”の「イノセンス」が解放される
提供:TOHO NEXT

石門
就活中に妊娠、卵子提供のバイト、生活に困窮…壮絶、しかし共感する驚愕体験【100%超高評価作】
提供:ラビットハウス

35年目のラブレター
【感動実話に“とんでもない絶賛”の嵐】噂を聞きつけ実際に観てきたら…忖度なし正直レビュー!
提供:東映

異常な映画みつけました
【クレイジー】壮大VFXを監督がほぼ1人で製作、完成に12年、正確に言うと未完成…面白すぎる
提供:Henge