故ジョージ・フロイドさんに捧ぐ――「それでも夜は明ける」監督、新作への思いを告白
2020年9月27日 10:00
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[映画.com ニュース] オスカー受賞作「それでも夜は明ける」のスティーブ・マックイーン監督最新作「Lovers Rock(原題)」が、このほど第58回ニューヨーク映画祭のオープニングナイト作品として上映された。マックイーン監督は、主演のアマラ・ジェセント・オービン、マイケル・ウォードらとともに会見に出席し、作品へのこだわりを語った。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)
本作は、BBC Studiosが手掛けたアンソロジー・フィルムシリーズ「Small Axe(原題)」(全5話)の1作品。舞台は、1980年代のロンドン。白人のクラブで歓迎されなかった西インド諸島の移民たちが、自らホームパーティを開催し、恋と音楽にのめり込んでいく一夜をとらえている。パーティでの浮遊感漂う音楽とダンスシーンが魅力の作品となっており、第73回カンヌ国際映画祭にも選出されている。
マックイーン監督は「Small Axe(原題)」について「同シリーズは、イギリスの黒人の生活において、非常に重要な時期だった1968年から始まっている。それは、あのイノック・パウエル(元イギリス国会議員)が『血の川の演説』を行い世間を騒がせた同じ年なんだ。そんな時期に、フランク・クリッチロウという男が『マングローブ9』(黒人運動家団体)の基盤を作り上げる最終段階からストーリーが始まっていく」と説明。同シリーズは、60年代後半~80年代半ばを描いており、「Lovers Rock(原題)」に加えて、「Red,White and Blue(原題)」「Mangrove (原題)」「Alex Wheatle (原題)」があり、現在は「Education (原題)」の仕上げの真っ最中だ。
「今日のイギリスの黒人を作り上げた道筋となる“当時隠されていた黒人たちの遍歴”を、僕の視点でとらえたストーリーを通して伝えたかった」とマックイーン監督。ニューヨーク映画祭には、実在の人物を描いた「Red,White and Blue(原題)」「Mangrove (原題)」も選出。一方、「Lovers Rock(原題)」はイギリスの黒人の日常体験を描いている。どのようなリサーチを行ったのだろうか。
マックイーン監督「何百ものインタビューから始めた。当時を知る人々と話しながら、歴史ともいえるストーリーを想起させることに情熱を傾けた。当初は、それらのインタビューを通して、どのように(ストーリーを)進めて良いかわからなかった。ただし、僕が持っていたアイデアを全て(ノートに)書き写したり、話したかった人々と会話をしたり、人を通して知り合った別の人の話も書き出したりもした。それらのストーリーは歴史の書物には書かれていないからだ。歴史の間に織り込まれた原文みたいなものだ」
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今作がデビュー作となった新人女優オービンは「私のキャラクターの参考になったのは、母親との会話。母親は9歳の時に、ジャマイカからイギリスにやってきました。(演じるキャラクターは)母親、そして私の叔母の事実でもあるので、きっと共感を持ってもらえるものだと思う。なぜなら多くの人々(黒人を含めた移民)たちが、ロンドンで経験してきたことだから」と告白する。
アマラと同様にジャマイカ移民の家族を持つウォード。だが、彼の家族は劇中の時代よりも遅れてイギリスに移住したため、当時を知る人々からヒアリングを行った。また、衣装が役作りにおいて大きな役割を果たしていたそうで「特に靴を履いた瞬間から、キャラクターに入り込むことができた」と語る。ウォードの発言通り、本作では当時の西インド諸島の移民文化も垣間見ることができる。
「Lovers Rock(原題)」は、最小限のセリフ、ホームパーティでのダンスによる身体的な交流が印象的だ。
マックイーン監督「今作の脚本は僕の叔母の話に基づいている。当時の彼女は、プライベートで酒が飲めるようなパーティに行くことを許可されていなかった。だが、僕の叔父が庭にある後ろのドアを(意図的に)開けていて、叔母が土曜日の夜に抜け出せるようにしていた。彼女は、Blues(ブルース)のパーティに参加し、日曜の朝に教会へ行く前に戻ってくる。そんな彼女の冒険を描きたかった。それと、観客を別の場所にいざなうとしたら、ムードが大切だと思ったんだ。僕の味覚、嗅覚、聴覚など、全ての感覚こそが、今作で最も重要なことであり、伝えたかったことだ」
オービンはダンスのシークエンスについて「ダンスの振付師との仕事が素晴らしいと感じられたのは、今と当時のダンスがかなり異なっていたから。当時のダンスを習得するには、どこにエネルギーを保つかを理解することが重要だった。足は根を張るように重く(床に)つけて、まるで数字の8のように、男女が腰を巻きつけるように踊る。そんなパーティで出会った人々同士が結婚したり、子どもを産む――人と人の結束が素晴らしかった。その繋がりを理解できれば、流れるようなダンスが美しいと思える」と振り返る。
一方、マックイーン監督は「僕は両親のダンスの仕方を覚えている」と思い出を明かす。「(当時のパーティには)ある習慣みたいなものがあって、男性が女性の肘から手に触れるというジェスチャーによって、女性が男性と踊りたいかを判断していた。俳優陣と振付師は、80年代半ばという設定において、自分たちにできること、あるいはできないことを把握していた。僕はそんな制限を与えただけでなく、彼らには自由も与えた。(カメラの前で)何が起こるかを見ることができたのは素晴らしかった」と語っていた。
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本作は、人種差別を受けながらも、黒人たちが懸命に生きる姿を描出。マックイーン監督は“BlackLivesMatter”の引き金となった故ジョージ・フロイドさんに、作品を捧げたことを表明している。
マックイーン監督「この6カ月間(=コロナ渦)、多くのことが起こった。ある時点で、僕らは立ち止まって考える必要があった。もちろん、新型コロナウイルスが強制的に僕らをそうさせた。事実、僕は今日もジョージ・フロイドが、ここにいることを正直に望んでいる。だが、彼は無駄死にをしたわけではない。そしてこれらの『Small Axe』の作品は、この世界の黒人の物語の一部だ」
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