【「オフィシャル・シークレット」評論】イラク戦争当時のイギリスで起きた事件が、妙にリアルに感じられる
2020年8月30日 08:00

[映画.com ニュース] アメリカのブッシュ大統領とイギリスのブレア首相が主導したイラク侵攻は、ずばり誤りだったという結論が独立調査委員会によって発表される。2016年のことだ。前のめりになるブッシュ大統領に、なぜか誰よりも早く協力を申し出たブレア首相。いったいあの時、米英間でどんな取り決めが交わされていたのか? 証拠の一端を掴んだ人物がいた。
事実の映画化である。イラク戦争の直前、アメリカ国家安全保安局NSAからイギリスの諜報機関GCHQに送られてきた1通のールを見た、GCHQ職員、キャサリン・ガンが、とっさにメールのリークを思い立つ。それは、イラク開戦決議を有利に進めたい米英両国が結託し、決議の行方を左右する国連安保理非常任理事国6カ国代表の通信を傍受せよとの内容だったからだ。キャサリンがプリントアウトしたそのメールは、彼女の友人を介して、やがて日曜紙“オブザーバー”によって国内外に告知される。“キャサリン・ガン事件”として記録される政治スキャンダルは、リークされたメールの信憑性をめぐる駆け引きや、機能不全に陥るメディアの惨状、そして、事実の検証が行われないまま始まったイラク侵攻の愚劣さなど、今も続く戦争の恐怖を我々に突きつけてくる。
それ以上に、これは倫理観に突き動かされ行動した1人の女性の物語だ。仕事仲間がGCHQ内で始まった犯人探しの標的になることに耐えられず、自白を決意したキャサリンが、周囲からのいわれのない偏見や重圧を跳ね除けて、否、むしろそれらを糧にして、国家を相手取った孤独で勇敢な告発者として、次第に逞しくなっていくプロセスは思わず心が躍る。人間は内面からでなく状況によっても変化し得ることに。
GCHQを和訳すると政府通信本部。かつて第二次大戦時にドイツ軍潜水艦の暗号、エニグマを解読したイギリス政府が誇る諜報機関だ。そこに所属する公務員でありながら、口外厳禁のメールを外に持ち出したキャサリンに課せられた罪は、「公務機密法違反」。でも、この公務機密ほど怪しいものはない。特に、昨今、ほとんどの部分が黒く塗りつぶされた海苔弁のような公文書を目の当たりにして来た日本人は、不信感を新たにするはず。そして、キャサリンの姿が眩しく映るかもしれない。イラク戦争当時のイギリスで起きた事件が、妙にリアルで生臭いのはそのためだろうか。
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