世界の16の島の伝統音楽を繋ぐ壮大なプロジェクト「大海原のソングライン」はどのように誕生したのか?
2020年7月31日 18:00

台湾の離島から始まり、オーストラリア、ニュージーランド、マレーシア、マダカスカル、そしてイースター島と、世界の16の島に残る伝統的な音楽とパフォーマンスを記録した音楽ドキュメンタリー「大海原のソングライン」が8月1日公開される。文字のない時代に動植物や自然について歌い、さまざまな楽曲を繋いで音楽で暮らしぶりを伝える、オーストラリアの先住民の“ソングライン”という方法を用い、かつて同じ言葉や音楽で繋がっていた島々の歌をもう一度集結させ、映画にするというかつてない試みに挑んだ製作陣が、石垣島ゆがふ国際映画祭(2021年開催予定)のプレイベントで来日し、その過程を語った。
豪・メルボルンで、音楽と映画製作を学んだティム・コール監督。本格的な長編映画の発表は今作が初となる。「1988年にパプアニューギニアのミュージシャンとのアルバム制作から私のキャリアがスタートしました。非常にクリエイティブな体験で、土着的でありながら非常に現代的、歴史的な深みもある作品になったのです。それから長い時間を経て、8年前にオーストラリアの芸術祭でバオバオに出会い、アボリジニの音楽をレコーディングする企画で、そこで二人で2年間暮らしながら仕事をしました。その時、気候変動について考える機会を持ち、私たちは音楽とこの問題を結び付けて映画を作りたいと思ったのです」と、キャリアと今作が誕生したきっかけを語る。

簡易な機材だけを携え、世界の島々を周遊。船の中など、旅をしながらノートパソコンとヘッドホンで編集を重ね、島や海の上で映画が生み出されていった。壮大なテーマと膨大な素材をミニマムな機材と人員で作品化するという、クリエイティブの力がいかんなく発揮されている。「できるだけ早くこの問題を伝えたいという緊急性がっあったので、この方法を使ったのです」とコール監督。
「気候変動の問題だけを伝えるドキュメンタリーにはしたくなかったのです。それは科学者の仕事です。人間にフォーカスを当てることによって、環境も自然に含まれますし、彼らが生きている自然環境を音楽のなかで伝えることができます。アーティストの役割として、文化にかかわる物語に貢献したい、それぞれが生まれてきた場所、自分たちのアイデンティティにかかわるものを伝えたい、という気持ちがあると思うのです。どちらかというと、これまで西洋文明が世界を牛耳ってきたような傾向がありますが、その結果として、様々な環境問題が引き起こされている。ですから、南洋の島々のミュージシャンたちが持つ物語が、この流れを変えるような動きになったらと考えたのです」
映画では、遠く離れたいくつもの島の伝統音楽が、高度な技術によって演奏され、それぞれのオリジナリティを表現しながらも、ひとつの楽曲として新たに提示されることに驚かされる。

「最初は、旋律になるような音もアイディアも何もなかったのです。私が出会ったミュージシャンたちに頼んだのは、『誇りに思う音楽』『物語を持った音楽』を共有させてください、ということだけ。アーティストたちに、プロセスそのものをクリエイトしてもらい、彼らの音楽を通して、私たちの声を伝えてもらったのです。レコーディング場所はスタジオではなく、ほぼ町中ですし、自分たちの着心地の良い服を着てくださいと、衣装もすべて彼らに任せています。彼らが誇りを持っている、心と体から出てきた音楽をみんなで共有し、新たに付け加えていく、という形で作り上げたのです」
プロデューサーのバオバオ・チェンは、「2014年にトラックにすべての荷物を積み込んで、5000豪ドルだけを持って出発しました。自分たちには夢があったので、やり遂げられると信じていました。私は大学でビジネスを学びましたが、映画のプロデューサーの経験はなかったので、ネットで学んだり、クラウドファンディングで資金を集めたり、見様見真似でやりました。目的を達成するには、やるしかないという気持ちで臨んだのです」と、企画のスタート時を振り返る。
さらに、「お金を集めるだけではなく、このプロジェクトを通して、多くの人にできるだけ大きな影響を与えることができるか、ということが大事でした。アジア、太平洋地域以外の人々にどのようにこの物語を伝えるかが目的でしたので、ヨーロッパ、オーストラリア、アメリカで旅をして、コンサートを開催したのもその一つです。教育的な面も重視し、アメリカの大学で若者に講義をしたり、ウェブサイトを立ち上げ、ゼロからメッセージも伝えました」と映画に込めた環境問題というもう一つのテーマの伝え方について説明する。

本編にも登場する、マダガスカルのメリナ族のサミー・サモエラは、マダガスカルに存在する18種の部族の楽器をすべて作って演奏できるミュージシャンだ。「素晴らしいプロジェクトだと思いました。私の音楽に興味を持ってくださる人たちがいて、島々の歴史と音楽を結び付けるなんて、自分にとっては夢みたいなこと。二人が突然マダガスカルにきて、自分の音楽を録音してくれた。レコーディングの時点ではわからなかったけれど、すべてが繋がった映画の全編を見たときに、震えるほど感動しました」と感想を述べる。
最後に、コール監督は「私はアーティストとして、島々の音楽を利用して利益を生み出そうということは考えていません。現地の方々の音楽は無形文化財と言えるでしょう。しかし、このような作品になるとコピーライトの問題も出てきます。私たちは彼らの音楽を集めて、ユニークな作品を作ったけれど、音楽そのものはミュージシャンのもの。私はフェアトレードミュージック、という考えで、利益の半分はミュージシャンにわたるような形を考えています」と、付け加えた。
「大海原のソングライン」は、8月1日からシアターイメージフォーラム、名古屋・名演小劇場ほか全国順次公開。新型コロナウィルスの影響を鑑み、オンライン映画館「仮設の映画館」でも同日より配信される。
(C)Small Island Big Song
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