【「劇場」評論】愛しい人へ感謝の気持ちを伝えたくなる、行定勲が仕掛けた「劇場」の奇跡
2020年7月10日 21:00

[映画.com ニュース] 「ここが一番安全な場所だよ」「一番会いたい人に会いに行く。こんな当たり前のことがなんでできなかったんだろう」。又吉直樹が「火花」で芥川賞を受賞する前から書き始めていたという「劇場」を象徴する会話の数々は、行間からにじみ出てくるものが実に映像的でたまらない気持ちになる。メガホンをとった行定勲監督は原作に最大限の敬意を払いながら、映画でしか表現できないことを鮮やかに描出してみせた。
山崎賢人扮する主人公の永田は、前衛的な作風が酷評され解散状態になった劇団の脚本家兼演出家。こう言ってしまっては元も子もないが、どうしようもない男だ。大学生の沙希(松岡茉優)と付き合うようになってからは部屋に転がり込み、何もかも甘えながら、厳しい現実と理想の溝を埋めるかのように演劇にのめり込んでいく。「夢を叶えることが、君を幸せにすることだと思ってた」から。
身に覚えがある演劇人(映画人)だけでなく、自らの意志を頑なまでに貫くことで大切な人に少なからず迷惑をかけた経験のある人が今作を見たら、のた打ち回るほどの心の痛みを覚えるかもしれない。今作の脚本を執筆した「劇団モダンスイマーズ」主宰の劇作家・蓬莱竜太にしてみれば、永田の心理状況は手に取るように分かったはずだ。それは、永田の才能を誰よりも信じ献身的に支える沙希の佇まいも同様で、若さゆえに傷つけ合う2人の姿は痛々しくすらある。そんな気持ちにさせるのは、ひとえに作品に身を捧げた山崎と松岡の鬼気迫る演技のたまものといえる。作品を彩る共演陣の存在は不可欠であるが、今作にあっては“ふたり芝居”の様相を呈していると形容するほど強烈な印象を残している。
俳優陣の唯一無二といっても過言ではない頑張りを更に特別なものにしているのは、行定監督が用意した奇跡のようなラストシーン。原作を読み終えた際、映画にしかできない大きな仕掛けとして思いついたそうで、小説にはないこのシーンは初号試写で鑑賞した関係者の心を激しく揺さぶった。試写会で感極まって鼻をすする音が聞こえてくることは時折あるが、あちこちから嗚咽の声が漏れ聞こえてくることは滅多にない。筆者も頬をひくつかせたことを白状するが、いよいよ今作を待ち侘びていたファンの元へ届くこととなる。
新型コロナウイルスの感染拡大によって公開延期となった影響もあり、公開形態は全国のミニシアターでの封切りとAmazon Prime Videoでの全世界独占配信となった。どのような形態となろうとも、今作が多くの人々の琴線に触れることを願ってやまない。愛しい人に「ありがとう」と感謝の気持ちを素直に伝えたくなる余韻とともに。
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