【「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」評論】実直な演出が封印された苦悩を浮き彫りにする、実話に沿ったオゾン渾身の社会派映画
2020年7月4日 18:00
[映画.com ニュース] 一作ごとにスタイルを変えるフランソワ・オゾンのフィルモグラフィの中でも、現在進行形の実話を映画化した本作はとくに、これまでのイメージと打って変わったリアリスティックな厳粛さにあふれる。華美なスタイルや遊びは影を潜め、演出は実直にストーリーを語ることに徹している。
神父の少年たちに対する性的虐待を扱った映画といえば、ジャーナリズムに焦点を当てた「スポットライト 世紀のスクープ」が思い出されるかもしれない。だが本作は反対に、神父を訴える被害者たちに寄り添ったものだ。彼らの決して癒えることのない傷を描くことで、事件の根深さを浮き彫りにする。
冒頭、リヨンの街を見晴らす丘にそびえ立つ、大聖堂のテラスに佇む枢機卿の姿が、カトリック教会の権力を象徴する。およそ30年にもわたり内部にはびこる問題を黙認した、権威に根ざした教会の腐敗を想像させる、重苦しい幕開けだ。
続いて社会的立場も性格も異なる3人の被害者がリレーのように登場する。ブルジョワ家庭の父アレクサンドル(メルヴィル・プポー)は、少年時代自分に性的虐待を与えたプレナ神父が、今も健在で、再びリヨンに戻ってきたことを知り、意を決して告訴する。それを知った同じく被害者であるフランソワ(ドゥニ・メノシェ)は、被害者団体を結成し、ともに闘う。ネットを通して広がる彼らの活動は、やがてもうひとりの被害者ピエール=エマニュエル(スワン・アルロー)と繋がる。彼らそれぞれの経験がときおりフラッシュバックで描かれるものの、オゾンはスキャンダラスな描写を避け、示唆的に写すに留めている。
ここで描かれているのは、呪わしい過去を公表することや巨大な権力を相手に闘うことの困難だけではない。一生引きずる身体的トラウマや、親族からもサポートを得られず無理解に苦しむ被害者たちの、やり場のない怒りと苦悩も見据えられている。
一方で、聖職者たちはショッキングなほど尊大に見える。罪の意識のないプレナ神父がアレクサンドルと再会し、厚顔にも彼の手を握ろうとするシーンは、観る者にも反射的な嫌悪を呼び起こすに違いない。
オゾンは声高な糾弾をするのではなく、ひたすら被害者の心の闇を掬い取ることで、みごとなまでに感動的な社会派映画を作りあげた。
因みにフランスでは、事件の裁判と映画の公開が重なったため、プレナ神父が公開差し止めを要求し大きな話題を呼んだ。その後昨年7月、彼に懲役5年の刑が下っている。
映画とはつねに、多少なりともその時代を反映するが、果たしてこの作品がなかったら事件がどれほど大衆に理解されたかを考えると、オゾンの志にはなおさら襟を正す思いがする。
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