【「道」評論】眠気を我慢したご褒美、最後の最後に凄い見せ場。そして「映像の魔術師」の片鱗
2020年5月30日 08:00

[映画.com ニュース] 新型コロナウイルスの影響により、多くの新作映画が公開延期となり、映画ファンの鑑賞機会は減るばかりです。映画.comでは、「映画.comオールタイム・ベスト」(https://eiga.com/alltime-best/)に選ばれた、ネットですぐ見られる作品の評論を毎週お届けいたします。今回は「道」です。
イタリア映画は、どちらかというと苦手な部類でした。それは、高校生の頃にビスコンティの「イノセント」を見に行って玉砕した経験があったからです。若い頃は、背伸びして映画を見に行ってもろくなことがない。意味が分からないから、寝るしかない。デートの映画にイタリア映画なんて選んだら、確実に失敗する。
だから、フェリーニ作品にはできるだけ近寄らないようにしていました。同じイタリア人でも、ビスコンティよりもさらにハードルが高そうなイメージがあったからです。学生時代、何本か見たことは見ましたが、ほとんど記憶にない。
そしたら先日(2020年5月)、近所に住む70代の義母が「フェリーニの『道』を久しぶりに見たい。女学生の頃(1960年前後)、日比谷に見に行ったけどあんまりいい印象が残ってない。もう一度見て確かめたい」と言うではありませんか。そんなのお安いご用です! この機会に私もフェリーニとちゃんと向き合おうと思い、ストリーミングで鑑賞することにしました。
「道」は1954年の製作で、日本初公開は1957年。私が生まれる前です。ベネチア映画祭の銀獅子賞やアカデミー賞外国語映画賞を受賞しています。映画.comのオールタイムベスト1200本にも選ばれています。
スタンダードサイズ、モノクロで、実に時代を感じさせる内容です。主人公は、自らの上半身にチェーンを巻き付けて固定し、そのチェーンを筋力だけで切って解き放つという、かなりプリミティブな芸を披露して小銭を稼ぐ旅芸人ザンパノ(アンソニー・クイン)、そしてそのザンパノに、口減らしのため売られた貧しい娘ジェルソミーナ(ジュリエッタ・マシーナ)。
ザンパノはジェルソミーナを連れて、時にはピン芸人として、時にはサーカス団の一員としてドサ回りを続けます。そこにちょっとした出会いや、シリアスないざこざが起こり、映画は陰影を刻んでいきます。
そこかしこに見られる男尊女卑っぷりが半端ない。「今どきの若者がこれ見たらどう思う?」など考えつつ、尊大な主人と健気な助手(兼妻)の珍道中を見ていましたが、私には、この映画のテーマがなかなか見えて来ない。次第に睡魔が襲ってきます。3幕構成の2幕目の部分、起承転結ならば「承」のパートがかなり長いので眠くなる。ゆっくり走る馬車に揺られ、気持ちよくなっていく感じ。
しかし眠気と戦っていると、馬車は不意に急加速しました。「転」から「結」へと畳みかける手綱さばきがもの凄い。
映画の終盤、フェリーニは実に底の浅いヒューマニズムを提示して、「ああ、それが言いたかったのか」と観客をミスリードするのです。しかしその後、34歳の若き映画監督は、後に「映像の魔術師」と言われる魔術の片鱗を披露します。特に最終盤、主人公ザンパノが酒場から追い出されて海辺へたどり着き、砂を叩きつけるまでの長回しの連打には圧倒されます。
そしてフェリーニは、最後の最後にこの映画の本当のテーマをドドーンと観客に叩きつけ、見事に「Fine」の大写しで締めたのでした。
もう、お見事としか言いようがない。私と義母、思わず大拍手。いいものを見せていただきました。フェリーニ監督作品、お代わり決定です。
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