【パリ発コラム】カンヌは延期 フランス映画界へのコロナの影響と行政からのサポート
2020年3月24日 18:00

世界各地で日に日に深刻化している新型コロナウイルスの影響で、ついに今年のカンヌ国際映画祭の延期が発表された。希望的観測として6月末から7月上旬の開催を目指したい、というのが映画祭側の意向だが、「中止じゃなくて延期なの?」というのが映画業界の反応だ。というのも、フランスでは少なくとも1500人以上の感染者が毎日出ている状態で、政府は3月17日から外出制限措置を導入。さらに欧州でも国境封鎖をする国が増えるなか、あと3カ月のうちにコロナの猛威が収束し、世界各国からゲストが迎えられるようになるとは考えにくいからだ。
マーケット部門をオンライン化させるという案はあるものの、レッドカーペットのセレブ行進が売りのカンヌでは、ゲストなしの作品上映だけというのは、あり得ないだろう。ジャーナリストにとっても、ゲストが来なければ取材もできない。ならば時期をもっと後にずらせるかというと、通常バカンス時期にあたる夏は避けるだろうし、9月からはベネチアを皮切りに映画祭シーズンに入るので、バッティングを避けるのは至難の技である。いっそのこと中止と発表してくれた方が、作品を申請する制作者側の立場としても諦めがつくのに、というのが大方の声だ。
3月15日からは映画館を含む各商業施設が閉ざされているため、当然ながら制作および公開延期の作品が後をたたない。たとえば2月の第70回ベルリン国際映画祭で上映されたアンヌ・フォンテーヌ監督、オマール・シー、ビルジニー・エフィラ主演の「Police」、フィリップ・ガレル監督の「Le Sel des larmes」、70周年賞に輝いたブノワ・デレピーヌとギュスターブ・ケルベルン監督の「Effacer l’historique」は、軒並み公開延期となった。また制作自体が飛んだ作品もあり、技術系スタッフのなかには数カ月間の仕事がいきなりキャンセルされた人も少なくないと聞く

そんな状況のなか、フランス文化省の機関であるCNC(国立映画、映像センター)は、映画業界の経済的危機を救うため、政府と提携して迅速なサポートをおこなうことを発表した。現時点では、2019年度の税金納入期限の延期、銀行へのローンの保障などいくつかの具体案が提示されている他、今後さらに状況を見ながら対策を考えていくという。国立機関による文化的領域へのサポートはもとより、いざというときにこうした素早い対応がなされるあたりも、文化を重んじるフランスの良さと言えるだろう。
一方、家から出られない国民のために、有料チャンネルのカナルプリュスが無料の時間帯を広げて誰もがアクセスできるようにしたり、パリ・オペラ座が過去の公演をオンラインで公開する、といったサービスも始まっている。
果たして今後、コロナの影響はどこまで続き、どんな様相を呈するのか。それは誰にも予測できないが、この前代未聞の深刻な事態に直面して、国と業界、国民が団結して乗り切ろうという機運が生まれている。(佐藤久理子)
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