映画業界の働き改革の現状は?日韓のシステムの違いを比較
2019年11月30日 11:00
[映画.com ニュース] 深田晃司監督、土屋豊監督が共同代表を務める特定非営利活動法人「独立映画鍋」と第20回東京フィルメックスの共催企画「映画の“働き方改革” インディペンデント映画のサステナブルな制作環境とは?」が11月29日、東京・有楽町朝日ホールで行われた。
映画の製作現場は、長時間労働や過度の低賃金が問題化され、慣習頼りで契約のない労働、ルールのない現場を変えていこうという気運が高まっている。本シンポジウムでは、インディペンデント映画の「働き方改革」について、海外の事例と比較しながら話し合う場となった。
ゲストで登壇した経済産業省コンテンツ産業課の佐野正太郎氏は、映像コンテンツ産業の発展のために「労働環境の改善によるクリエイティビティの発揮」「コンテンツの質の向上」「海外市場向けの大規模製作」の3項目を掲げ、これらの項目がうまく循環することで、業界構造を転換したいと語る。その第一歩とし「映画制作現場実態調査」を実施。この調査は、日本映画製作者連盟、日本映画製作者協会などの関係団体の協力のもと、仕事内容及び生活の状況、キャリアパスや取り引き実態などに関するアンケート調査を実施。その結果をレポートとして取りまとめたものとなる。
結果によると、映画製作を継続している理由について「映画が好き」「尊敬する人、仲間がいる」「自分の才能、能力を発揮するため」といった意見がある中で、業界の問題点として「収入が低い」「収入が上がりにくい」「勤務時間が長すぎる」「この業界の将来性が不安」と感じている人が多いようだった。また、発注書・契約書の受領状況をみると「発注書・契約書をもらっていない人」は64%で、そのうち77.3%は「発注書・契約書をもらいたい」と解答した。
続いて、その報告をベースに海外の事例と比較することに。東京フィルメックスのコンペティション部門に「波高」を出品している韓国のパク・ジョンボム監督は「韓国では何年も前から、撮影前にスタッフと標準勤労契約書を交わさないといけないんです。そしてスタッフは保険に入らなければならない。そして労働時間を守らないといけない。もし残業が発生したとしても、週に52時間以上の労働は許可されません。もし時間を過ぎても撮影を続けようとしても、照明部がライトを消して帰ってしまいます」と解説。さらに#MeToo運動の流れから、4時間のセクハラ防止の教育プログラムも受けることが必須になっているという。
韓国の状況を聞き、日本の登壇者たちも感心した様子を見せるが、パク監督によると制度の導入によってより多くの予算が必要になってくるという。「時間を守るという点でもそうですし、契約書を交わすということは、最低賃金も上がらないといけなくなる。そして保険に入るということは、会社側が半分を負担しないといけない。いただける助成金の額は変わっていないのに、賃金は2倍に上がり、撮影期間は半分しかとれない。そうなるとシナリオそのものも書き直さないといけなくなる。結局、独立映画を撮っていた監督たちも、商業映画の方に向かっていかざるを得なくなってしまうんです」と指摘する。
だがそれでも、パク監督は日本では撮影スタッフが契約書を交わすことがほとんどないということを聞き、「ショックですね。それは必ずやらないといけないところだと思う」と驚いた様子を見せながらも、「それによって増えてしまう資本は大手企業から出してもらうべきだと思います。韓国の場合、チケットの売り上げの3%が映画発展基金というところに入り、それでKOFIC(韓国映画振興委員会)が運営されています。それによってインディーズ映画にも支援が行われています。日本でもこれを応用してやってみたらいいんじゃないかと思います」と提案。深田監督も「賛成です」とその意見に同調していた。
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