14歳で第三夫人となった少女描くベトナム映画に上野千鶴子氏「日本でもあったこと」
2019年10月26日 15:00

[映画.com ニュース]富豪の第三夫人として嫁いだ14歳の少女の生活を描いたベトナム映画「第三夫人と髪飾り」(公開中)のトークイベントが10月25日Bunkamuraル・シネマであり、社会学者の上野千鶴子氏が作品を語った。
ベトナムの新鋭女性監督アッシュ・メイフェアが自身の曾祖母の実話をもとに描き、主人公の少女・メイを取り巻く愛憎と悲哀そして官能を、美しく撮り上げ、世界各地の映画祭で数々の賞を受賞した。この日、劇場で2度目の鑑賞をした上野氏は「素晴らしい映像美と音響。映画館で見るものだと再認識しました。ディテールも素晴らしく、34歳の若さでこれだけ円熟した映像美を作れるとは」と今作が長編デビュー作のメイフェア監督の手腕を絶賛する。
物語の舞台は19世紀ベトナムの設定だが、「遠くのところのエキゾチックな世界の話だと思わないで欲しい。監督のひいおばあちゃんの経験に基づいて作られたお話ですが、私たち日本人もひいおばあちゃんの時代なんてこんな感じ」といい、「映画は14歳で嫁いだ設定ですが、私の明治16年生まれのばあちゃんは16歳で嫁いで、子どもをひとり産んで19歳で離婚しました。ばあちゃんのいとこは妻妾同居をしていました。夫を間にして小の字で寝ていたそうです。日本でも歴史的には普通にあったことなんです」と明かした。
そして、「女の役割は息子を産むこと、娘しか産まない女性には価値がない。(権力や財力のある男性は)生殖力の盛んな女性を次々に妻にする」と当時の価値観を説明し、主人公とは別の少女が第一夫人の息子のもとに嫁ぐも、その息子は親同士が決めた結婚を拒否するという一場面を挙げ「一番の悲劇は嫁いできた女の子の自殺。お父さんに『たった一つの務めも果たせないのか』と言われる。それはセックス要員です。そして息子を産むという。抑圧的な映画なのに、そういったことを美しい映像で淡々と描き出して、すごい監督だと思いました」と言葉や態度で反抗することができなかった女性たちの描き方について言及した。
さらに、フランス領だった時代から、インドシナ戦争、東西冷戦やベトナム戦争について触れ、「私は団塊世代ですが、日本人にとってもベトナム戦争は他人事ではない。空爆に行く飛行機は日本から出ていましたし、ベトナムで戦ったアメリカの兵士が休暇にくるのが日本だった」と自身の経験とともにベトナムの歴史を振り返り、「ひいおばあちゃんからおばあちゃん、お母さんからメイフェア監督の時代まで、いろんな歴史に翻弄された国。こんな言い方していいか分からないけれど、メイフェアさんは自分の歴史の中に埋蔵資源をたくさん持っているのでは」「メイフェアさんが映画監督になったのが、かつて戦った国、アメリカ。先物買いのようですが、これからもフィルモグラフィを追いかけていけたら。次の作品にワクワクしています」と新鋭監督への期待を語った。
(C)copyright Mayfair Pictures.
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