今だから語れる「ゲーム・オブ・スローンズ」舞台裏 原作者が映像化を許した理由とは?
2019年9月27日 19:00
[映画.com ニュース]第71回エミー賞に史上最多の32ノミネートを果たし、ドラマ部門作品賞受賞で有終の美を飾ったドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」最終章のブルーレイ&DVDが、10月2日にレンタル開始、12月4日に発売される。これを記念して来日した制作総指揮のデビッド・ベニオフ氏&D・B・ワイス氏が、世界的大ヒットとなった同ドラマの舞台裏を明かした。(取材・文/平辻哲也)
「ゲーム・オブ・スローンズ」は、米有料チャンネルHBOが1話につき制作費約 1000 万ドルともいわれる巨額を投じ、ジョージ・R・R・マーティン氏のベストセラー小説「氷と炎の歌」の壮大な世界観を映像化した大人気シリーズ。架空の大陸ウェスタロスを舞台に、鉄の玉座をめぐる陰謀と策略が渦巻く権力争いが描かれる。2011年4月に放送スタートし、8年がかりで描かれたドラマの最終章では “夜の王”率いる「死の軍団」と人類の存亡がかかった最後の決戦が描かれる。最終話は約1930 万人が視聴し、HBO 歴代最高の視聴率を記録。同作に関するツイートは今年だけで5200万を超え(※2019年5月2日 時点)、 テレビシリーズ史上もっともツイートされた作品となった。
この世界観を作り出したのが、大学時代からの親友という制作総指揮のベニオフ氏&ワイス氏だ。ネット上で賛否両論を巻き起こした最終話の展開は、シーズン2から固まっていたという。ドラマでは、シーズン1の主人公ネッド・スターク(ショーン・ビーン)を始め、主要人物が次々と命を落としていくが、殺してしまうには惜しいキャラクターはいなかったのだろうか?
「確かにそういうキャラクターはいるんだけれども、それよりも演じている役者さんに会えなくなるのが寂しいんです。例えば、(ドロゴ役の)ジェイソン・モモアとは本当にとても仲良くなったのですが、ドロゴの物語はあそこで終わるべきでした。(モモアに)会えないのが寂しくなってしまって、シーズン2での夢のシークエンスで再登場してもらいましたね。でも、どのキャラクターも、死ぬべきタイミングで死んでいます」(ベニオフ氏)
それは、キャスト陣に恵まれたからだといい、ほかにも、ネッド・スタークの妻キャトリン役のミシェル・フェアリー、スターク家の長男ロブ役のリチャード・マッデンらの名前を挙げた。一方のワイス氏は「デビッドの言う通りで、生かしておいたところでストーリーが理に叶わなくなるので、仕方がないんです。ジェイソンとの付き合いはプライベートで続けていますし、そういうキャストは結構いますね」と語る。特に、スターク家の子どもたちとは、8年に及ぶ付き合いで、成長期を見守った。
「(サンサ役の)ソフィー・ターナー、(ブランドン役の)アイザック・ヘンプステッド=ライト、(アリア役の)メイジー・ウィリアムズ。最初は本当に小さなかわいい子どもたちだったのに、この間はソフィーの結婚式に行ってきたところです。身長6フィート(約182センチ)ある僕と変わらないくらい背も伸びて……。みんな成長し、変わっていきました。特にアイザックはものすごく背が伸びましたが、劇中ではずっと車椅子姿なのでバレませんでした(笑)。11歳の可愛い女の子だったアリアは、立派な一人前の女性になりました。みんな大人になりましたが、僕たちは最初に会ったときと同じように接しています」(ワイス氏)
ドラマには、スターク家を始めとする10の名家が登場し、セリフがあるキャラクターだけでも200人以上が登場する。キャラクターづけに苦労した人物はいなかったのだろうか。
「最初の数シーズンは原作に基づいているので、ストーリーもキャラクターもかなりきっちり描き込まれています。ただ、キャスティングを経ていろんな考えが入ってきました。例えば、バラシオン家の王、ロバート・バラシオンを演じるマーク・アディは、僕らの想像通りの王様でした。オーディションテープをパソコンのサムネイル程度の小さい画像や動画でみただけでも、イメージ通り。ルックスも声色もバッチリでした。彼と同じくらいイメージ通りだったのはティリオン・ラニスター役のピーター・ディンクレイジと、ネッド・スターク役のショーン・ビーン。でも彼らは例外で、ほかの方々はとてもじゃないけど想像通りにはハマりませんでした。サーセイ・バラシオン役のレナ・へディは、原作のサーセイとは全然違って、すごく笑わせてくれるユーモアあふれる人です。彼女自身の役柄に対する解釈があって、サーセイに人間的な解釈を加えてくれました。揺らぎや良いユーモア感が足されて、原作よりも肉付きができました。リトルフィンガー役のエイダン・ギレンも、いい意味で原作よりもはるかにミステリアスです。それが素晴らしくて、わざわざ彼を原作通りのイメージに押し込める必要はないと感じました。彼がセリフを言うにつれ、どんどんキャラクター像が膨らんでいったんです」(ワイス氏)
人間以外にも、デナーリス・ターガリエンが育てる3頭のドラゴンの造形にもこだわった。「(原作者の)ジョージのこだわりとして、4足のドラゴンはありえない、飛べないじゃないか、というのがありました。あとは恐竜や鳥といった実際の生物からインスピレーションを受けつつ、さまざまなアート作品や映画からお気に入りのドラゴンを参考にして、良い所取りをしたんです。実は、かなり前からドラゴンの爪でデナーリスを囲むということを決めていたので、デザインに貢献してくれたVFXチームはシーズン3くらいからドラゴンがどう成長していくのかを、きちんと作っていてくれました。最後の2シーズン以外のドラゴンは成長期なので、すべてサイズが違うんです。ネタバレしないように、VFXチームは描き上げたデザインをすぐに破棄しなければいけませんでしたね」(ベニオフ氏)
「ゲーム・オブ・スローンズ」の映像化権を獲得したのは、2人が原作者のマーティン氏に面会した際、主要人物のひとりであるジョン・スノウの、原作では明らかになっていなかった実の母親を言い当てた、という話がある。ベニオフ氏は「それは本当なんだよね」と笑って答える。
「原作を読んだ時に、ふたりともこれまでにないほど興奮していました。だから、映像化実現に関しては非常にナーバスになっていました。そもそも彼が許してくれなければ、当然、映像化することはできないわけですから。初めてジョージにお会いしたのはロサンゼルスのステーキハウスでした。ランチは4時間にも及び、終わった頃にはウエイターと僕らしか残っていませんでした。確か、ジョージの大きな髭にバターが付いていたな(笑)。その席で、ジョージが『ジョンの本当の母親は誰だと思う?』と聞いてきたんです。大変幸運なことに、前日にこの人じゃないかとふたりで話していて、それが当たりました。映像化を許してくれたのは、このクイズに正解したからだと思っています。クイズに正解したという事実よりも、いかに僕らが原作に対して深い思い入れがあるのか、熱い思いを持っているのかを感じてもらえたという意味でね」
実際、原作小説「氷と炎の歌」には多数の映画化のオファーが来ていた。「1本の映画に、つまり2時間にまとめることになったら、キャラクターも物語も95%カットしなきゃいけなくなる。僕らはそんなことをしたくなかった。そのアイデアはよかったけれど、僕らには経験がありませんでした。それは彼も良くわかっていたので、きっと不安はあったと思います。それでも、僕らの情熱を信じてくれた。クイズにも正解したし(笑)、まるっきりわかっていないことはないということで、僕らに賭けてくれたのだと思っています」(ベニオフ氏)
8シーズンに及ぶ物語で、ストーリーテラーとしてこだわっていた部分はどこなのか。「脚本家としてまず思うのは、視聴者を飽きさせてはいけないということ。僕らの子どもの頃のテレビは、CBS、NBC、ABCと3チャンネルしかなくて、見るものもと言えば、『ファンタジー・アイランド』(1977~84年放送の人気ドラマ)。あまり質が良くない回も、ほかに見るものがなかったから当然のように見ていました。でも、今はいつでもいろんなところでドラマを見られる。観客が飽きてしまったら、それで終わりになってしまうんです」(ベニオフ氏)
「ストーリーテラーとして何にひかれるかという点では、私たちに特別な何かがあるとは思いません。究極的な話ですが、私たちがキャラクターに思い入れがあれば、見ている方も、そのキャラクターがどんな方向に向かって行こうともついて来てくれると思うんです。だからこそ、愛するキャラクターが死んでしまったり、恐ろしいことをする姿を見なくてはならなかったり、つらい思いをしてしまうこともあるでしょう。しかし、73時間という長い時間をかけてじっくりとキャラクターの道のりを描けたこと、そして、群衆劇としてキャラクターの道のりを描けたこと、素晴らしいキャストに出演してもらえたことは、恵まれていたと思っています。僕たちはキャラクターについていき、その内面に忠実であることを大切にしています。ルールをたくさん作ってしまうと、結局破ることになってしまうのであまりルールは作らず、とにかく、キャラクターを愛することが重要ですね」(ベニオフ氏)
ふたりは今後、「スター・ウォーズ」シリーズの新三部作を手掛けるほか、HBOを離れ、Netflixと契約したことが報じられている。次はどんなドラマを見せてくれるだろうか。
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