イーストウッド新作「運び屋」は“仮装する北野武”に共通!? 町山智浩が徹底解説
2019年2月23日 12:00
[映画.com ニュース] クリント・イーストウッドが監督・主演を兼ねる最新作「運び屋」の公開記念トークイベントが2月22日、都内で行われ、米在住ジャーナリストで映画評論家の町山智浩氏が登壇した。
実話を基にした本作でイーストウッドが演じるのは、毎月100キロ以上のドラッグを運んだとされる“伝説の運び屋”。仕事一筋で家庭をないがしろにし、事業の失敗で家財の一切を失ってしまった孤独な老人アール・ストーン(イーストウッド)は、車の運転さえすればいいという仕事を引き受けるが、その実は巨大麻薬組織の運び屋だった。
イーストウッドにとっては「グラン・トリノ」以来の監督・主演作。「本人が言っているように、役柄は彼自身を投影しているし、半自伝的な作品」と口火を切った町山氏は「インタビューをした際に『今まで家庭をないがしろにし過ぎた』と言ってました。アールは半分イーストウッドとして見てもらっていい」と説明。MCを務めた映画批評家の相田冬二氏から“実話モノ”が続いている点について問われると、「イーストウッドは“ネタ探しの人”なんですよ」と切り返した。
「例えば『グラン・トリノ』に出てくるモン族の話というのは、ラオスの国境地帯でホーチミンルートを守る共産軍と戦っている頃から情報を聞きつけて映画化しようとしていたと、伝記に書かれています。とにかく歴史上の面白いネタは片っ端から拾っていますね。彼はアフガン戦争に反対していたんですが『いっぱい調べた。外国の軍隊が攻め込んでいって勝利できたためしがない。戦争は徹底的に調べると良くなることはほとんどない。だから戦争はなくなる』と言っている」とエピソードを披露。そして「リサーチ主義から反戦の立場をとるという非常に珍しい人」と分析していた。
本作を通じて観客に伝えたかったことは「男は仕事だけで評価されるという時代は終わった」ということ。「イーストウッド自身、アカデミー賞を獲ったり、映画作家として非常に評価されている。(その一面を)アールの姿を重ねている。時代の変化に常に追いついていかないといけない――彼は“キャッチアップしていく”と言っていましたね。それと『俺は良い爺さんになれているかな』と仰ってましたね。実はこの10年ほどの映画は“贖罪”の話ばかり。若い頃悪かった奴が、その罪滅ぼしをする。自分自身の人生をまとめ上げようとしていますね」と明かしつつ、インタビュー時の「人の人生は1本の映画のようなもの」という発言を紹介していた。
そして「この映画は枯れていないのがすごい! ギラギラとした“いやらしい欲望”がたぎっているところがイーストウッドらしい(笑)。それが長寿の秘訣なんじゃないかと思いました」と町山氏。フォトセッションを迎えてもまだまだ話し足りない様子で「いまだに笑わせようとしている点が偉い。本作は“尊敬されないように”作ってます。立派な人として尊敬されたくないからこそ、こういう映画を撮ったはず。北野武さんが色んなイベントにおいて、変な仮装で出てくるニュアンスに近い。基本的に下ネタ映画ですから、しかめっ面で見るべきではないんですよ。ジジイのエロ話だと思って鑑賞してもらうと楽しめると思います(笑)」と客席に言葉を投げかけていた。
「運び屋」は3月8日から全国公開。
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