瑛太「若手でも中堅でもない難しい年齢」 時代劇「闇の歯車」で確信した“向かうべき場所”

2019年1月18日 18:00


インタビューに応じた瑛太
インタビューに応じた瑛太

[映画.com ニュース] 瑛太が主演し、藤沢周平氏のサスペンス長編時代小説を時代劇専門チャンネルが映像化した「闇の歯車」が、1月19日から東京・丸の内TOEIほかで期間限定上映される。約1年3カ月にわたりNHK大河ドラマ「西郷どん」で大久保利通を演じた直後、今作の撮影に入った瑛太。「頭で考えてしまう時間が多かった」と苦闘の痕跡を吐露するが、それ以上に“得たもの”の大きさが計り知れない。時代劇への思いや俳優論に迫るインタビューのなか、彼は「時代劇をできる俳優でありたい。それは正直、自分が若手でも中堅でもない難しい年齢に入ってきているから」と実直に語り、自身の“向かうべき場所”を示してくれた。(取材・文・写真/編集部)

時代劇専門チャンネルが開局20周年記念作品に選んだ題材は、人情ものが多い藤沢作品でも異色といえる、緊張感みなぎるサスペンス。江戸時代の深川を舞台に、町人の佐之助(瑛太)が怪しげな老人・伊兵衛(橋爪功)らと700両の強奪に挑む姿を描く。

4Kカメラで撮影され、テレビ放送に先駆けた劇場上映が行われる本作。同局の野心的な攻めの姿勢がうかがえるだけに、オファーを受けた瑛太は「時代劇で主演をやる責任感。そして時代劇専門チャンネルの今までの作品とは違う、義理人情だけではない“サスペンス”を盛り込んだ新しいチャレンジに、すごくワクワクしていました」と力が入った。ところが撮影初日、瑛太は混乱の沼にはまってしまう。

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「佐之助を演じるのに、町人というキーワードが肝でした。これまでいくつか時代劇をやらせていただき、武士を演じることが多かった。そのため、今回は“町人の所作”に意識がいってしまったんです。もちろん指導は受けていましたが、感情のお芝居よりも頭で考えてしまう時間が多く、『どうしたらいいのか』と悩んでいました」

トンネルを抜けるきっかけは、初共演の大先輩・橋爪の存在だった。肩肘張らない芝居を目の当たりにし、「そうか、町人ってどんな形でもいいのか」「実在した町人の動きなどに関する資料って、きっと残っていない。そう考えると、自由にやっていいんだ」と腑に落ちた。

「たまに懐から手が出てきたり、自分の顔を触ったり。あまり決めすぎず、普通に生活しているなかで、自然に動くことを意識していました」。なるほど、映画の仕上がりを見ると、窮屈さを感じさせない豊かな身のこなしが印象的だ。

一方で佐之助の心情や背景に言及するとき、瑛太は「僕がどうこう語るより、見ていただいた方に『どんな人なのか』と想像しながら見てほしい」と観客に判断を委ねる。かつて抱いた表現への思いは刻々と変化し、今は“何もしない芝居”に重きを置いているという。

「20代前半のときは、『明るく頑張れば人を元気にできる』と考えた時期がありました。でも今は、引き算でいい、というか。表現を削ぎ落としていけばいくほど、お客さんに余白を与え、想像してもらえる。そのことが面白いんです。もちろん、作品によって考え方は変わります。しかし基本的には、役への絶対的な愛を芽生えさせ、思いをのせようとしなくとも(役が)成立するようにしています。そうすることで、自分がカメラの前に立った時点で『キャラがなぜ存在しているか』を説明できると思うからです。最低限セリフが言えて、相手のセリフをきいている状態になれれば、『何もしない』こともいいと思う。本番前、自分にそう言い聞かせている部分があるかもしれない。不安はないか? そうでもないです。監督に任せていますから。俳優は容れ物であり、そこに台本や監督の演出が注がれます。僕自身の思いは、現場にはあまり必要ない気がしています」

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「本作前の1年3カ月間、大河ドラマに出演していて、自分が何を得て、何を修正するべきなのか考える余裕もないまま、この作品に入りました。そうして現場で橋爪さんや山下智彦監督とお会いし、感じたことは『枠にとらわれなくていい』という表現者としての面白さ。時代劇って、実はすごく自由なんです。現代劇では、現代の思想や振る舞いが反映されます。『そんなしゃべり方しない』だとか。しかし時代劇はファンタジーでもあり、そこで俳優がいかに遊ぶかという大切さを、橋爪さんたちから改めて感じました。だから時代劇って、面白いんだと思った」

観客に余白を与えるべく引き算の芝居を試み、“自然体の向こう側”にたどり着いたようにも見える瑛太。そんななか、改めて俳優として思うのは、「自分が難しい年齢にさしかかっている」ということと、「だからこそ時代劇に向かうべき」ということだ。

「時代劇をできる俳優でありたい、という思いが強くなりました。それは、自分が正直、すごく難しい年齢に入ってきているからでもあります。若手でも中堅でもないし、お父さん役にしては若い。今がとても大事な時期で、もう一度俳優として見つめ直すうえでは、時代劇という厳しい環境がいいと思った。俳優としてどこに向かいたいかを考えると、日本から出て、違う国の方々に存在を証明していこうとする方もいると思います。ですが僕は、もともとそういう志向はないんです。日本映画を海外の人に見てもらうシステムを強化していくほうがいいと思っていて、そう考えると、時代劇は絶対に強い。黒澤明さんや、三船敏郎さん、勝新太郎さんがいた。海外の人に面白いと思われるのは時代劇だと確信しています。30代半ばの今、もう一度底力をつけ、40~60代で自分が俳優としてやっていけるのかどうか、その基盤を作る時期だと思っています」

ラストシーン、瑛太が筆舌に尽くし難い、すさまじい表情を浮かべ、作品は幕を閉じる。「佐之助は生と死に対して決断をした。侍だけではなく町人にも生き様があり、それを見せられるラストになったら、と感じていました」。彼が大業を成す日は、そう遠くない未来に待っている。

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