松江哲明&高橋ヨシキ、地獄のライド映画「暁に祈れ」は実生活に役立つ!?
2018年12月15日 16:15
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[映画.com ニュース] 2017年の第70回カンヌ国際映画祭ミッドナイト・スクリーニング部門で上映され、大きな反響を呼んだ「暁に祈れ」(公開中)のトークショーが12月15日、東京・ヒューマントラスト渋谷で行われ、松江哲明監督、映画ライターでデザイナーとしても活躍する高橋ヨシキ氏が登壇。メガホンをとったジャン=ステファーヌ・ソベール監督の長編デビュー作「ジョニー・マッド・ドッグ」も取り上げつつ、同作の魅力を解説した。
タイに実在する“地獄”と呼ばれた最悪の刑務所に服役し、ムエタイでのし上がっていったイギリス人ボクサー、ビリー・ムーアの自伝ベストセラー小説を映画化。松江監督の「ぐったりした」という要因について、高橋氏は「本作は『スター・ツアーズ』のようなライド映画。自分が体験したくないことも体験できる」と分析。「例えばタイタニックが沈んでも、誰も“沈んだ”ことを実感することはない。(名の知れた俳優など)知っている人が出てくると、ライドの妨げになる」と語り、出演者の大半が現地タイの元囚人を起用していることによって増した“没入感”に着目した。
内戦で戦った元少年兵らをキャスティングした「ジョニー・マッド・ドッグ」の大ファンだった松江監督。「暁に祈れ」ではビリー・ムーア本人が出演している点を引き合いに出し「『ジョニー・マッド・ドッグ』と同じく、この映画の構造&演出はシンプル。“地獄”を経験させておきながらも、通過儀礼を描いている」と語ると、高橋氏は「随所随所に入った“ほっこり感”が良い」と補足。「ほっこりさせておいて、続けざまに落とす。だから油断できない。ギリギリし続けると疲れてしまうし、(本作は)ちゃんとエンタテイメントになっている」と話していた。
「日常の描写と試合のシーンを同じベクトルで描いている。『ここからが見せ場』という形ではなくて、同じ距離にカメラがいます」という松江監督の意見に対して、高橋氏は「ソベール監督はハリウッド的なバイオレンスを美化するような描き方はしないと言っています。裏を返せば、それはバイオレンスシーンも通常の場面と同じように撮るということ」と切り返し、暴力描写について言及。「バイオレンスを『ヤバい』と感じる人、そうじゃないと思って映画を撮っている人の違いは、殴られた後にどのくらい腫れるか。本当にボコボコにされると顔が倍くらいに腫れますから。『(殴られたら)本当に痛い』と言っておくのは重要なことですし、映画の描写においても同じこと」と語っていた。
また実際に起こった物語であることから「普通の劇映画だと『今の何?』と思う場面も、実際に体験したことだから描けてしまう面白さがある。ドキュメンタリーを作っている時でも辻褄の合わない話が出てくることがありますが、その話が脱線したところが面白い。『ジョニー・マッド・ドッグ』と同様に逸れていく部分に魅力を感じます」と松江監督。「本当に経験した人がやることで、想像して描けないものが入っている」という高橋氏は、ソベール監督のコミュニケーション能力の高さを指摘し「(元囚人や元少年兵は)基本的に自慢話が上手い。その話だけで終わるところを、(映画のネタとなるような要素を)上手にすくっているはず」と見解を述べていた。
やがて、高橋氏は「新しい学校、バイト先、バー、友達に誘われたクラブ、あんまり親しくない奴の結婚式、これらは言っちゃえば刑務所に入るのと同じ経験(笑)。牢名主のような存在がいて、知らない奴がいて、『新入りが来たぞ』と見られる機会ばかりでしょ?」と持論を展開。「この映画を日々の生活に活かしてほしい」という発言を受けて、松江監督は「こういう映画って結局実生活に活きてくるんですよね。“空っぽ”な映画を見て、その瞬間だけ楽しいというのも良いんですけど、『暁に祈れ』で描かれる出来事は、バイト先でも起こるかもしれない。本作は(どんな状況でも)“やっていくしかない”映画。映画で先に描いてくれていると、いつか感謝する日がくるかもしれない」と思いの丈を述べていた。
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