「愛と法」戸田ひかる監督が語る“可視化”することの大切さ
2018年10月1日 11:00
[映画.com ニュース] 弁護士の男性カップルの日常と2人が関わった裁判事例から、日本の「家族感」を浮き彫りにしたドキュメンタリー映画「愛と法」。同作で、第30回東京国際映画祭「日本映画スプラッシュ」部門作品賞などに輝いた戸田ひかる監督に話を聞いた。
大阪の下町で法律事務所を営む南和行さん(カズ)と吉田昌史さん(フミ)は公私にわたるパートナーだ。2人は、戸籍を持てずにいる人や、「君が代不起立」で処分された元教諭の辻谷博子さん、女性器アートで「わいせつ物陳列」等の罪に問われた芸術家兼漫画家のろくでなし子さんの裁判を担当する。そんな社会の矛盾と向き合う2人のもとに、突然居場所を失ってしまった少年カズマくんが加わり、「家族」3人の生活が始まった。一見すると何のつながりもない裁判や出来事だが、自分らしさのためにたたかう人々の姿が重なり合ったとき、いまの日本の「見えにくい問題」が浮かび上がる。
10歳からオランダで暮らし、英ロンドンを拠点に世界各国で映像制作を行ってきた戸田監督。あるイギリス人監督のプロジェクトの手伝いで、大阪でリサーチをしているときにカズとフミに出会い、本作の撮影で22年ぶりに日本で暮らした。
「オープンな2人にすごくひかれました。弱い部分も含めて受け入れあっている姿がカップルとして理想的だなと思ったんです」。人情味のある彼らを頼りにする依頼者から「日本の見えにくい部分や、普段はあまり聞くことのできない本音を、見たり聞けたりするのでは」と、2人の弁護士としての活動にも興味を抱いた。プライバシーの問題から撮影できる対象は限られたが、「見えにくいものを、どうやったら見せられるか」を考え、本作が生まれた。
「無戸籍の方が言っていたのは、裁判に行くというだけで家族に縁を切られたとか、裁判をするイコール何かやらかしたんやろみたいな。そういう体験をすると、ますます顔を出せなくなってしまう。ますます可視化できなくなって、問題が放置されるという悪循環がある。自分が悪いことを何もしていないにもかかわらず、顔をさらけだせないという状況があるというのも衝撃的でした。プライバシーを守りながら、こういう状況を伝えるのはすごく悩んだところです」
「法律が人の人生を奪っているという現実」。明治時代(1898年)に民法で規定された「家制度」は、戦後の民法改正で廃止されたが、その価値観はいまも根強く残っている。「そういう価値観を維持したい人がいるから、なかなか法律が変わらないのかな。そこで女性の問題でいえば、ろくでなし子さんの話につながりますし、同調圧力が強いと個人の意思が尊重されにくくなっているという意味では辻谷先生の話にもつながります。問題はすべてつながっているんだなと思います」。法律家の目線から撮影したことで、関連性が見えてきた。
本作の根底には「家族」というテーマがある。「個人の話をしようとすると、日本ではまず家族の話になりますよね。一族としての自分というのが第一に社会的価値観としてあって、それが法律にも反映されているからこそ古い法律が成り立っていると思うんです」。
「美しいものでもあるんですよ。絆や愛情、帰る場所とか。その反面、理想像や一般的(な範疇)からはずれるとすごいことになりますね、ということは今回の撮影で思いました。そういう意味でも、『家族』は日本ではすごい複雑なテーマになんだなって。辻谷先生の話も、家族というテーマから離れているように見えるかもしれないけど、『国家』という概念では、そこに家族というものが根付いている。いろんな法律が通されて、個人の自由を奪うような雰囲気になってきているから、君が代不起立裁判というのが時代を表しているのかなとも思いました」
海外生活が長かったことから、「みんなが当たり前に受け入れている矛盾みたいなものが、私の当たり前と違うから気づく部分もある」という戸田監督は、「素朴な質問がしにくいですよね」と指摘する。「『なんで?』って言うと、『そういうもんだから、しょうがないでしょ!! 』って(笑)。あえて考えないようにしている。追求されると答えがないから怒る。自分たちもどこか納得していないんじゃないでしょうか」。
「映画を通して可視化する。問題を難しいものとして提示するのではなくて、自分たちが体験しているような問題意識として可視化するのが大切だと思うんです」。法律を扱ってはいるが、難しい用語は少なく、実体ある個人の体験談がつづられることで身近な問題として実感が湧いてくる。「映画は答えを出したり説明したりするツールではないですが、人の共感を呼ぶツールではあると思います。だから、気持ちや思いをどうやったら描写できるかな、と色々悩みました」。
映画に登場する人々からは覚悟や信念が感じられるが、決して一方的に主義主張が押し付けられることはない。それは戸田監督の観客に望むスタンスにも現れている。「こういうリアリティもあるのね、くらいでいいと思います。いろんな人がいて、いろんな生き方があって、それに同意することなく、反対することなく、こういう現状があるってことをただ単に見せている。なので、それに共感してもらえたら一番いいですけど。愛や自分らしさ、家族、個人の権利といった普遍的なことを扱っているので、どこかしら心に響くことがあると思います。自分が当たり前だと思っていたことを、新しい視点から見てもらえたらうれしいです」
「愛と法」は東京・渋谷ユーロスペースほか全国で順次公開中。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
マフィア、地方に左遷される NEW
【しかし…】一般市民と犯罪組織設立し大逆転!一転攻勢!王になる! イッキミ推奨の大絶品!
提供:Paramount+
外道の歌 NEW
【鑑賞は自己責任で】強姦、児童虐待殺人、一家洗脳殺人…地上波では絶対に流せない“狂刺激作”
提供:DMM TV
ロード・オブ・ザ・リング ローハンの戦い NEW
【全「ロード・オブ・ザ・リング」ファン必見の超重要作】あれもこれも登場…大満足の伝説的一作!
提供:ワーナー・ブラザース映画
ライオン・キング ムファサ
【全世界史上最高ヒット“エンタメの王”】この“超実写”は何がすごい? 魂揺さぶる究極映画体験!
提供:ディズニー
中毒性200%の特殊な“刺激”作
【人生の楽しみが一個、増えた】ほかでは絶対に味わえない“尖った映画”…期間限定で公開中
提供:ローソンエンタテインメント
【推しの子】 The Final Act
「ファンを失望させない?」製作者にガチ質問してきたら、想像以上の原作愛に圧倒された…
提供:東映
映画を500円で観る“裏ワザ”
【知って得する】「2000円は高い」というあなただけに…“超安くなる裏ワザ”こっそり教えます
提供:KDDI
モアナと伝説の海2
【モアナが歴代No.1の人が観てきた】神曲揃いで超刺さった!!超オススメだからぜひ、ぜひ観て!!
提供:ディズニー
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。