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菅田将暉&桐谷健太、愛たっぷりに振り返る“芸人”として生きた日々

2017年11月26日 17:00

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菅田将暉&桐谷健太
菅田将暉&桐谷健太

[映画.com ニュース] 「空の声が聞きたくて~、風の声に耳すませ~」。桐谷健太を皮切りに、菅田将暉板尾創路監督が代わる代わるマイクを握り、桐谷が浦島太郎名義で発表した「海の声」のイントロを絶叫した。時は3月12日、場所は静岡県熱海市の「熱海銀座」。又吉直樹の第153回芥川賞受賞作を映画化する「火花」撮影初日は、この3人の“熱唱”から始まった。(取材・文/編集部、写真/根田拓也)

温泉地・熱海であっても、早春の深夜は冷え込みも激しく、彩り鮮やかな浴衣姿で出歩く酔狂な観光客の姿もない。だが、この日の熱海銀座は違った。夏祭りの設定のため季節外れの夏服に身を包んだ約300人のエキストラは、挨拶代わりのマイクパフォーマンスに瞳を輝かせ、その後の足取りが軽快になったことは想像に難くない。

「あんな事されたら、深夜だって頑張るしかないじゃないですか!」。エキストラに参加した20代の女子大生の笑顔が、他の参加者の声を代弁している。桐谷は「あれしか出来ることがなかったとも言えるんですけどね。ただ、盛り上がってほしかったし。いやあ、懐かしいっすね」と朗らかな笑みを浮かべる。

映画は、漫才の世界で結果を出せずにくすぶる「スパークス」の徳永(菅田)と、強い信念を持つ神谷(桐谷)が出会い、自らの才能に葛藤しながらも懸命に歩み続けた10年間の軌跡を描く。この日はストーリーの序盤、営業先の花火大会で神谷の漫才を初めて目撃した徳永が魅了され、弟子入りを志願する重要なシーンの撮影だった。

菅田「初日の印象は、『カラテカ』の矢部太郎さんのパンチパーマと髭面がおもろすぎて……。板尾さんと『こういう得体の知れない危ない人って、ヤンキーにおるよなあ』って笑い合ったのを覚えています。それと人前で漫才を披露したのは初めてだったので、緊張しました。しかも誰も聞いていないっていうシチュエーションでしたから、より焦る感じ、必死になる感じでしたね」

桐谷「夏祭りの前、昼間に砂浜でインしたんですよ。砂に埋まっているんで(笑)。しかも撮り直しがあったりしてね。ほんで、砂がまだ残ってるから、もう1回風呂入ろうって流れの中で迎えた夜だったんです。初日は通りを歩く人たちを『地獄! 地獄! 地獄!』って言うセリフの前までで、俺ははよ『地獄地獄』って言いたくてしょうがなかった。もう言いたい、いま言いたいって気持ちになっていて、1回言ってしもうたくらいですから」

この日を境に、菅田と桐谷は否応なしに芸人の世界へと猛進していくことになる。その導き手を担った“相方”の存在を、今作で無視することはできない。菅田には現役漫才師である「2丁拳銃」の川谷修士、桐谷にはかつて吉本興業に所属し、お笑いコンビ「トライアンフ」として活動していた当時には後輩芸人から“鬼軍曹”の異名で恐れられた過去を持つ演技派俳優・三浦誠己がブッキングされた。関西出身の2人だけに、即座に「三浦くん、鬼軍曹って言われてたんや!」(桐谷)、「いや、怖いですよ。今だってちょっと怖いですもん」(菅田)とツッコミを忘れない。

本編を見れば一目瞭然だが、「スパークス」の菅田&川谷、「あほんだら」の桐谷&三浦は疑いようがないほどに芸人としてスクリーンの中を生きており、初々しさすら漂う若手時代からの10年間を、唯一無二の存在感で見せつけている。それは、2つのコンビが相方との絶大なる信頼関係を構築したからに他ならない。

菅田は倍近い年齢差の川谷に対し、感謝の念をにじませる。「こんなに人に背中を預ける瞬間ってないなあって思うんですよ。僕が唐突に何かをやっても全て突っ込んでくれる。ここから先が崖で、落ちたら死ぬのに、いつ飛び出すかわからん俺をいつでも助けてくれる感覚というか……。その安心感たるや、すごかったですねえ。漫才に関しても、修士さんが『何でも好きにやったらええ』って言ってくれたんです」。しかし、それとはまた別種の感慨にもとらわれたようだ。

「板尾さんが言ってたんです。『最初は楽しいかもしれないけど、弁当の食べ方ひとつとっても、相方に対してイラついてくるから』って。僕が先に撮影を終えて楽屋へ入ったら、まだ撮影中の修士さんの私服があったんで、それをそのまま着て現場へ戻ったんです。どんなツッコミを入れてくれるんやろうって、ワクワクするじゃないですか。そうしたら、『あれ、それ俺のや』って、普通の感じ。もうちょっと強くきて欲しかったなあ……って思っちゃいました」

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一方で、桐谷は10数年以上も昔の話を始めた。「三浦くんが芸人をやめてすぐに出た映画に、僕も出ていたんですよ。彼は、その時から既にヤカラでしたから(笑)。『おまえ、昨日、あっこに飲み行ったろ!』みたいに言うてきよるんですよ。お互いに若くて尖っている時代だったんで、『だから何やねん!』みたいに言い返したりね。今回、台本を見たら名前があったんで、『うわあ、あいつや!』ってなった。それが、現場入って稽古していたら、もう大好きになってもうた(笑)」。

因縁のある相方に救われたことは、1度や2度ではなかったという。「原作を読んだ時に、神谷に何十人格というか、いろんな人間のエッセンスが入っているように感じていて、自分のひとつしかない体でどう演じようかと悩んでいたら、三浦くんが『桐谷健太の思う面白い間、面白い言い方で言えば、それが神谷になるよ』って言うてくれた。それですーっと1本つながったように思えたんです。めっちゃ感謝していますよ」。さらに、「『漫才の練習がしたいねん』って言ったら、どこにでも来てくれました。俺が行くと言っても、『大丈夫、大丈夫』って。代々木公園だったり、カラオケだったり、ほんまに30分くらいしか稽古が出来ない時でも来てくれましたね。嫌いになるくらいインパクトのあったやつと仲良くなれたわけですけど、俺らはそんな期間も含めて、なんか『あほんだら』っぽいなと思ったんですよ」と目を細めながら述懐した。

相方に恵まれた2人だが、本編中では師弟関係を結び、芸人としての充実した青春を謳歌している。共演自体は、某CMの“浦ちゃん”と“鬼ちゃん”で多くの人の知るところとなっているが、面識を得た当初から今の空気感と同じものを身にまとっていたようで、「将暉とは、出会った頃からこんな感じで普通に話しているんですよ」(桐谷)、「関係性はそんなに変わっていないですよね」(菅田)と、どこまでも自然体だ。それでも、長期間にわたる時間の共有により、認識を改めることもあったという。

桐谷「ト書きだけの部分で会話するところでは、板尾さんから『ちょっとしゃべってみて』って言われて、それが採用されたり、されなかったりっていうのはありましたが、ほんまに普段の空気をいい感じで出せたっていう実感はあります。意外やったのは、俺が骨を鳴らしたら、『ああ、その音、いやっすわあ』って言ってきたとこかな(笑)」

菅田「よう覚えてんなあ、そんな細かいこと(笑)。僕の方は、桐谷さんとこんなにガッツリ共演させて頂いたことはなかったので、ガッと入っていく集中力というか、1カット1カット、なんか残してやろうっていうパワーを間近で見られた。これは初めてやったんで、勉強になるなあって思っていたら、(桐谷は)ゲラゲラ笑っていました。そのさまは、まさに神谷でしたね(笑)」

芸人という“生き物”を熟知し尽くしている板尾監督の現場であることを差し置いても、程よい緊張感と和やかな雰囲気が同居していたことに、2人は思いをめぐらせる。そして、映画監督・板尾創路の凄味について、貴重な話を聞かせてくれた。

菅田「自分の部屋で日記を書いているとき、監督から『徳永、どこが落ち着くかちょっと寝てみて』と言われたんです。どんな体勢が落ち着くかを確認してくれて、『ほな、それでいこうか』って。強制することなく、そういった部分を任せてくれる感じは、すごく気持ちが良かったですね」

桐谷「人によって演出を変えるのはテクニシャンやなあって思いましたし、シーンによってピリッとさせたり、笑いでほっこりさせることも出来る。ましてや芸人さんですから、使い分けがすごいし、言葉のチョイスが上手。言葉で勝負されている方なので、どうすることが一番伝わるかをずっと考えてはるし、発想がほんまにすごい」

菅田「解散ライブのシーンでのことです。基本的には台本通りなんですが、板尾さんが『1つだけアドリブを入れるとしたら…、もし修士が泣いていたら“おまえ、なに笑うてんねん!”って突っ込んであげて』って。それ聞いたとき、鳥肌が止まらなかったですね。なにその洒落た演出! って思いましたし、素敵でしたねえ」

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