34歳の新鋭監督が故郷ルクセンブルクを題材に新作を撮った理由
2017年11月12日 06:00
[映画.com ニュース] 34歳の新鋭ゴビンダ・バン・メーレが脚本・監督を担当した「グッドランド」。第30回コンペティションで上映された本作は、小さな農村に流れ者が居着いたことから村人たちがひたすら隠していた秘密が暴かれるミステリー。主演は、全編140分間ワンカットで撮ったことが話題になった「ヴィクトリア」のフレデリック・ラウ。故郷ルクセンブルクを題材に本作を撮った監督に話を聞いた。
ゴビンダ・バン・メーレ監督(以下、メーレ監督):正直なところ、本作では「これがこうです」というメッセージを伝えようとして作り始めたわけではないのです。どういう作品であったとしても、全力を尽くして真摯に向き合っていけば、その世界で私が見ているものが自然な形で映画に反映されると思っていますから。ですから、この作品がひとつのクリアなメッセージを持っているわけではないのです。ただひとつ強く感じるのは、自分の子供時代の思い出を反映しているということです。
メーレ監督:この映画の舞台となる村は、私が育ったルクセンブルクの小さな村と同じ世界観です。映画のように殺人事件は起きませんでしたけど(笑)。村というコミュニティの中で暮らしていて、私の両親はその村にうまくとけ込みたいと強く願っていました。というのも、わが家は母がスリランカ人、父がベルギー人という、ルクセンブルクにおいてはとても特異な家族のバックグラウンドがあるからです。ですから、幼い僕としては両親のそういう思いを察してコミュニティに馴染まなければいけないんだと思って努力をしていました。ブラスバンドのメンバーになったり、教会に通ったり。大人になったらみんなと同じように農家を営むんだとも考えていました。でも、一方ではアイデンティティ的な苦しみもすごく感じていたのです。果たして、僕はどのカルチャーに属しているのか? ということを常に考えていましたから。
メーレ監督:まさに、おっしゃるとおりです。ルクセンブルクはとても小さな国なので、「ルクセンブルクは、村みたいだよね」とよく言われます(笑)。みんな顔見知りですから。つまり、ルクセンブルクで育つということはまったく同じような感覚を持ち、子供時代のこともお互いにみんな知っているのです。まあ、それはそれで安全だし安心なんですけれど…。たとえば、ヨーロッパで起こっている移民の問題や貧困の問題などの影響も受けないところで育つという意味ではいいのですが、やはり年を取るに連れてちょっと小さすぎると、窮屈さを感じるようになりました。
メーレ監督:ルクセンブルクというのは極めてきれいで安全です。いわばヨーロッパのユートピアと称されるモデル的な国なのです。しかし、実際に住んでいると「そんなはずないだろ。何かあるんじゃないか?」と思えてきます。そういうダークな部分というのは“臭いものにはフタをする”のことわざではないけれど、どこかにしっかりフタをして隠してあるんじゃないかと。ルクセンブルクで育った経験から、いまの私がそう感じていることです。
メーレ監督:キャスティングがすごく大変でした。なにしろ小さな国なのでプロの俳優自体が少ない。そこからキャラクターに合った俳優を探すとなると至難の業。ですから、今回も多くの出演者のうち、主演のイエンスにフレデリック・ラウと彼と関係を持つリュシー役のビッキー・クリープスだけはドイツのプロの俳優をキャスティングしました。それからギャングを演じた2人もプロでしたが、その他は全部ノンキャリアの素人です。僕は、以前もその方式で作品を撮ったことがあるのですが、プロとアマチュアの混合は意外と良い結果を生み出すのです。
メーレ監督:彼が出演をOKしてくれたことが、とてもラッキーでした。イエンスという役にとても深くハマってくれて、すごい演技を披露してくれました。イエンスは、村で暮らすようになってからゆるやかに変化していきます。そして最後にはジョスという男になるのですが、その小さな変化を少しずつ施していったのです。1日2時間メイクをするのですが、そのメイクが毎日微妙に変わっていって、最後には髭も剃って髪も切って…。撮影はその変化を撮るために順撮りにしましたが、その作業は本当に大変でした。
メーレ監督:正直、最初の段階では季節を意識してはいませんでした。というのも、もともとは7~9月の間に撮ろうと思っていたのですから。ところが俳優さんたちのスケジュールの都合があわなくて撮影開始が遅れてしまった。そこで、私としては季節に合わせて脚本を手直ししました。もちろん、それはそれで手間のかかる作業でしたが、当初の思惑よりもずっと多彩な映像が撮れたし、物語の味わいも深くなった。3シーズンにまたがって撮影が出来たことは偶然ではあったけれど、私にとっては映画の神様からの素晴らしい“ギフト”だったのだと、今は思っています。
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