中田秀夫監督“ロックな鬼才”ラブ・ディアス最新作は「絶対にスクリーンで見るべき」
2017年10月3日 19:53
[映画.com ニュース] フィリピンの鬼才ラブ・ディアス監督がメガホンをとり、第73回ベネチア国際映画祭で金獅子賞(最高賞)を受賞した「立ち去った女」のトークショー付き試写会が10月3日、東京・渋谷の映画美学校で行われ、中田秀夫監督、東京国際映画祭プログラミングディレクターの石坂健治氏が出席した。
全編モノクロの本作は、殺人の罪で30年間投獄されていた無実の女ホラシアが歩む“復讐の旅”を、美しくも徹底的な長回しとロングショットを駆使して3時間48分で描き出す。Jホラーの名手として知られる中田監督だが、実は日本でも有数のフィリピン映画通だ。80年代当時“アジアのハリウッド”とも呼ばれ隆盛を誇っていた同地に渡ってリサーチを重ね、母校・東京大学の卒業論文は50年代黄金期の作品を中心とした「フィリピン映画研究」をテーマにしていたようだ。
「戦後である50年代の作品には、フィリピンの土着文化、カソリックに強い影響を受けている。そしてアメリカの文化。その3つの要素が絶妙にミックスされ、映画文化が花開いた時代だと思う」と分析した中田監督。その言葉を受けた石坂氏は、フィリピンでは中田監督作品が絶大な人気を誇っていることを明かすと「フィリピンを舞台に撮らないんですか?」と問いかけた。すると、中田監督は「2年前に香港国際映画祭で出会った方との企画が今でもあります。フィリピンの伝統的なゴーストストーリーをベースに、日本人も登場する。日本の占領下で軍人たちがとんでもないことをしたという血塗られた歴史もあるので、そのような要素を含めた脚本を書いてもらっている状態です」と応えていた。
平均で5~6時間、時には9時間に達するほど長尺の作品をつくることで有名なディアス監督。「立ち去った女」については「作る側も見る側も“見つめ続ける胆力”が必要とされる。半端な根性では見られない」「写真家のように映画を撮っているイメージ」と評した中田監督は、ディアス監督の特徴でもある長回しについて「俳優のエモーションに寄り添っていくような溝口(健二)的なことは全くしない」と説明する。だが「例えば、水浴びをさせるシーンは強烈。こっちは油断しているので、言葉にならないエモーションを感じる」と言葉を続けると「この作品は絶対にスクリーンで見るべき。(PCやテレビなどの)コンピューターで見てはいけない」と熱弁していた。
「ディアス監督はとにかくイケメンで、マニラの街を歩いてると、ジャニーズ並みの人気ぶり」と明かした石坂氏は「ギンギンのロックンローラーな一面があり、一方でどの作品でも“神の不在”を扱うような哲学者、思想家的な面がある。『立ち去った女』には、その二面性が反映されている」と語った。そして、第29回東京国際映画祭で上映された489分の大作「痛ましき謎への子守唄」をわずか20日で撮ったという伝説的エピソードに加えて「現場では『ロッケンロール』『クール』『ファッキン』の3つの言葉しか言わないらしい」と明かした。
熟練した舞台俳優を中心に起用することから「長回しのシーンではほぼ芝居を任せる」という逸話を聞いた中田監督は「俳優さんを信頼できて、監督の口数が少ないほど、良い結果が出る。監督が俳優に細かく口を出す時は、何か問題が生じている時だから」と納得の表情。「大島渚監督も仰っていましたが、キャスティングをした時点で監督の仕事は8割終わっている。この考えをいつも胸に抱いて撮影に臨むんですが、どうしても言葉数が多くなっちゃいます(笑)」と話していた。
「立ち去った女」は、10月14日から東京のシアター・イメージフォーラムほか全国で順次公開。
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