秋吉久美子「ノーブラ撮影だった」 藤田敏八監督「妹」撮影秘話を語る
2017年8月27日 21:25
[映画.com ニュース] 没後20年となった藤田敏八監督の特集上映が8月27日、東京・池袋の名画座「新文芸坐」でスタートし、日活製作の「赤ちょうちん」「妹」(いずれも1974年公開)に主演した秋吉久美子がスペシャルトークショーを行った。
「妹」を観客といっしょに見た秋吉は、立ち見が出る大盛況に「元若者に囲まれて、幸せです」と“らしい”言い回しで、まずは挨拶。「当時を思い起こしながら、ああ、ケータイないんだな、と思いましたね。でも、(今にない)豊かな部分もあったんですよ」と話し始めた。
「妹」は、フォークグループ「かぐや姫」の大ヒット曲をモチーフに、突然、同棲相手の元から逃げてきた妹と、兄(故林隆三さん)の近親相姦を思わせる共同生活を描く。劇中で全裸も披露する秋吉は、“同棲相手を殺してきた”とミステリアスな告白をする妹を演じた。
秋吉の主演映画「インターミッション」(2013)の監督で、映画評論家の樋口尚文氏が聞き手を務めたが、ほとんど秋吉のワンマンショー。「今だったら、あんな女を映画で撮りますかね? 台本には噛むなんて、書いていないんだけど、本番で(林さんを)噛んじゃった。『イテテ、バカやろう!』って言われました。ある程度のお芝居のラインはありますが、それ以外はライオンの赤ちゃんを撮っている感じだったんじゃないかな。(CSの動物専門チャンネルの)アニマルプラネット青春版みたいなものですよ」と笑う。
撮影当時は福島県いわき市から上京して1年目で19歳の時だったという。「当時は、斬新な映画と言われていたけど、自分としては、この映画は、おじさんたちのものと思っていた。藤田さんや(助監督の)長谷川和彦さんは『分かっているのか? 脱ぐんだぞ、おまえ』と何度も言うんです。私は、こちらは当然と思っていましたから、何言っているのか、と。都会のかっこいい女はノーブラだったので、即ノーブラ。そんなのはへっちゃらでしたよ。ブラジャーの線が入っていなかったでしょ」と秘話を明かした。
演技については、共演した吉田日出子の演技を見て、学んだそう。「意味があるように見せるのが上手で、こんな感じかなと覚えてしまった」。それでも、「ある時、パキさん(藤田監督の愛称)が『おまえ、うまくなっちまったな。うまくなるなよ』とゴニョゴニョとおっしゃった。調子に乗ったら、いけないな、とハッとした。今や、『たまにうまい』と言われていますが、今日、映画を見たら、うまくないところが生かされている」と振り返った。
藤田監督はほとんど演出しなかったというが、本人が気づいていない素顔を撮ることがあったともいう。「ある意味、小津安二郎的なところもあったんでしょうかね。役者がつらくなって、素になったところを撮るみたいな感じ。パキさんの場合、ほとんどリハーサルはなくて、演技も2、3回しか撮らなかったのですが……」と話した。
「妹」については「青春映画の純文学、それも芥川賞的な感じがしますね。近親相姦的な純愛と葛藤。兄は、ありとある女性に、妹に対する愛情を乗せてしまう。起承転結もよく分からなくて、意味不明。なぞかけみたいなところがヌーベルバーグだなあと思いました」と評した。
その後も、日活「バージンブルース」「炎の肖像」などを経て、他社作品に出演。「映画会社によってカラーがありました。日活はすごく自由。その気分で、東宝に行ったら、『この子は生意気だね』と結髪さんにいじめられたりしました。映画そのものが学校でしたね。お金をもらいながら学ぶ感じでしたね。今の現場は、忌憚が多すぎる。もっといろんなことを言い合ったらいい。表現する現場というのは、闊達に作っていくのが大事かなと思います」と力を込めていた。
「没後二十年 藤田敏八 あの夏の光と影は~二十年目の八月」は同所で9月2日まで、全14作品が上映される。