台湾詩人のドキュメンタリー、巖谷國士氏「マン・レイらから受け継いだセンス」と監督を絶賛
2017年7月19日 14:00
[映画.com ニュース]1930年代に日本統治下の台湾で誕生したシュルレアリスム詩人団体にスポットを当てた「日曜日の散歩者 わすれられた台湾詩人たち」の試写会イベントが7月18日、東京・虎ノ門の台湾文化センターで行われ、来日したホアン・ヤーリー監督とフランス文学者の巖谷國士氏が作品とその時代背景を語った。
1930年代の台南で、日本語教育を受けたエリート青年たちが、日本語による詩を創作し、新しい台湾文学の創造を試みるために設立した「風車詩社」。若きシュルレアリストたちが時代のうねりに巻き込まれていく様を追う。台湾のアカデミー賞に相当する金馬奨で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した。
巖谷氏は「大胆で、明晰で、超現実的で、美しい映画。現実に立脚しており、その断片がつなげられている。この映画が素晴らしいと思ったのは、説明がないから。何も説明せずに、映像や詩、絵画、ニュースが引用され、とにかく自然物が印象的」と感想を述べる。
ホアン監督は「こんなにプロフェショナルなコメントをいただいたことがなかったので感謝している」と感激の面持ちで、「シュルレアリスムがヨーロッパから日本に入り、日本に合った形で変化し、日本経由で台湾に入ってきたそこでも新たな変換が行われている。同じ時代に異なる国で全く違う作家が共通のものを目指していた。文学、芸術が個人、国を超えて広がるということ。自分が彼らの立場に立ってどのように創作をしたのか体験したかった」と製作の意図を説明した。
巖谷氏は当時を語る映像作品としてマン・レイ「エマク・バキア」、フェルナン・レジェ「バレエ・メカニック」、サルバドール・ダリ「アンダルシアの犬」などが引用されていることに触れ、「ヨーロッパで作られ、世界中の映画史に組み込まれている1920年代の映画からインスピレーションを受けていると思う」と指摘。そのほか、大東亜文学者大会の宣言を起草した横光利一ら、戦争がはじまり隷従して行った日本の文学者たちの背景を紹介した。
それを受けホアン監督は、当時の台湾でプロレタリア文学が盛んであったことも挙げ「台湾は日本の植民地で、複雑で矛盾だらけの状況。芸術のための芸術を追求すること自体がとても政治的なことだった。政治活動の中で芸術性は何かと考えると矛盾だらけで、詩人たちの心の中には波が立ったのではないか」と持論を述べる。
また、巖谷氏は、日本人画家の作品として戦前のモダニズムを代表する洋画家の古賀春江、三岸好太郎の作品を選んでいることに触れ、「本来のシュルレアリスムは科学合理主義を否定するものだが、日本は近代の文明や風俗に憧れており、それがモダニズムの画家たちであった、古賀はその後にシュルレアリスムに傾倒した」と解説。三岸が描いた貝殻の絵、ジャン・コクトーの貝殻の詩に影響を受けた台湾詩人の詩など、貝殻が作品内で登場することについて「貝殻はオブジェで、貝の死んだ後の単なる空虚。比喩ではなく、終わった物体のようなものとして描かれている。失われていくものがこの映画には無数にあり、一種のデカダンス。その過程を説明せず、心理や感情に訴えず明晰に淡々と構成していく。そして非常に静かで乾燥した明るさを感じさせる」と評する。
さらに、「私が心ひかれたのは自然の映像とオブジェ」だと言い、そのセンスをマン・レイらから受け継いでいると感じた。シュルレアリスムの基本にあるのは、オブジェの精神で、意味も説明もない物体の定義。それが偶然のように、監督が意図せず映画全体のどこかでつながっているので、美しい叙事詩になっている」と絶賛した。
「日曜日の散歩者 わすれられた台湾詩人たち」は、8月19日からシアター・イメージフォーラム他全国順次公開。
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