「日本のアニメヒーローにあこがれた」 伊のマイネッティ監督「鋼鉄ジーグ」にオマージュ
2017年5月19日 17:00
[映画.com ニュース]永井豪原作のアニメ「鋼鉄ジーグ」をモチーフにしたイタリア映画「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」が5月20日公開する。「日本アニメに大きな影響を受けた」と語る、新鋭ガブリエーレ・マイネッティの長編デビュー作で、2016年イタリアのアカデミー賞にあたるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞最多7部門を受賞。このほど来日し、永井氏とも対面したというマイネッティ監督に話を聞いた。
歴史上に残る英雄たちを生み出したローマが舞台。ふとしたきっかけで超人的なパワーを得てしまった孤独なチンピラの主人公エンツォが、その力を用いてテロの脅威からローマの人々を救う物語だ。幼少期にテレビで「鋼鉄ジーグ」を見て育ち、長年「イタリアのスーパーヒーロー物を作ってみたかった」と考えていたそう。「もともとのスーパーヒーローの起源はギリシア神話の時代にさかのぼると思うし、学校でも習うけれど、僕の世代のイタリアの子供たちは家でテレビで見る日本のアニメのヒーローに皆あこがれました。アメコミのヒーローより、日本のアニメのヒーローに親しみがあったんじゃないかな。子供のときに、教師たちがギリシア古典やローマ古典を楽しくレクチャーしてくれたらよかったんだけどね」
「だから、ヒーロー物はこうあるべきだと言う定石を破ってでも自分たちのスーパーヒーローを作りたかったんだ。エンツォはローマ郊外のチンピラ。ただの人嫌いのチンピラがスーパーヒーローになるというシチュエーションのおかしさ、ありえなさが魅力。映画が始まって3分の1の時間はヒーローとはいえないアンチヒーローに仕立てたんだ」
悪役のジンガロをはじめ、他の登場人物も、ステレオタイプではない立体的な人物像を描きたかったという。「どんな登場人物も何かしらの痛みを抱えている設定にした。いい人でも悪人でもね。例えば、ジンガロは現代的な病を抱えている。SNSで“いいね”がつかなかったり、有名でなければ存在価値がないという恐怖観念に取り付かれている。だからこそ、彼の弱さや、共感できる部分を観客が見出して、愛されるキャラクターになった。何も話さずただ残忍な悪人として描きたくはなかったんだ。人間って想像がつかないことが怖いと思うけど、『ああこいつ知ってる!』って思うような怖さもあると思うからね」
数ある日本のスーパーヒーローアニメのなかから、「鋼鉄ジーグ」を選んだ理由は、「単純にジーグの色彩が好きだった」からだそう。「でも、脚本を書き終わったときに気付いたのは永井豪のヒーロー物にはいろんなメカが出てくるけれど、司馬宙(シバヒロシ/原作の主人公)が自分自身がメカになる唯一の存在だと気付いたんだ。それは宙自身がヒーロー性を持っているってことなんだろうと。また、女性の助けなしにヒーローたりえないという設定も象徴的だと思う」
永井氏にはイタリアと日本で対面した。「彼の漫画にはすべてのことが描かれているから、実は何も聞きたくなかったんだ。神秘性が永井さんの作品の魅力だから。すごく寡黙な方だったけれど、必要な口数で伝えるべきことを伝えるすべを持っている人だと思ったよ。この作品をシンプルな言葉で評価してくださって、ああ、わかってくれたんだなとうれしかった。奥様も優しそうで、母親的な包容力をもった方。素敵なご夫妻だと思いました」と振り返った。
「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」は、5月20日からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。