神山健治監督「ひるね姫」製作舞台裏での“絵コンテ神話”への挑戦
2016年12月27日 12:00

[映画.com ニュース]オリジナル劇場アニメ「ひるね姫 知らないワタシの物語」の製作現場がこのほど、都内にあるアニメーションスタジオ「シグナル・エムディ」で報道陣に公開され、神山健治監督が取材に応じた。同スタジオは、絵コンテ、作画など全ての工程をデジタル化し、タブレットに直接描き込んでいく作業方法をとっている。長編アニメで「フルデジタル作画」を導入するのは異例なことだが、そこには神山監督の「本当の意味でのデジタル化の実現」「既存の作画のシステムを変える」「スタッフのために」という思いがあった。
神山監督が製作の拠点としていたProduction I.Gも所属する「IGポートグループ」の4つ目の製作会社として2014年に設立されたシグナル・エムディ。古巣を離れ、新たなスタジオで新作に挑む意図を「既存のスタジオだと今までのやり方がある。日本のアニメの作画のシステムが、強固なインフラになっていて、なかなか変えていくのが難しい。みんな思っているのに、なかなか実現できないことがあって。でも新しいスタジオであれば、やりやすいのではないか」と説明。「作画をデジタル化しないことには、本当の意味では演出もデジタル化しないんです。結局紙で見てしまい、一旦アナログに戻ってしまっている」と明かした。
本作の製作真っただ中にあるフロア内には、約70台のタブレットが設置され、モニターへの光の反射を防ぐために部屋の半分は天井の明かりが消されている。新機材を使いこなすための期間のみならず、本作ではコンテ合宿も実施。ディズニーやピクサーのように、神山監督を中心に複数のスタッフでコンテを描くスタイルをとった。「1人で全部のコンテを描くことで、作家性を維持する良さも重要ですが、ある程度、合議制で作れる部分でもあると思いまして」。
コンテをタブレットに描く利点を問われた神山監督は、「紙に描いてそれを提出となると、それはひとつの作品なので、そこから直すことに躊躇(ちゅうちょ)してしまう。日本のアニメ業界には“絵コンテ神話”みたいなものがあって、脚本の最初から描き下ろしたものに魂が宿るみたいな。そういった一発勝負的な作り方が未だに支配的な部分がある。コンテでトライ&エラーをしてみようなんていう酔狂なスタッフが、なかなかいないんです」と日本のアニメ業界の現況について言及。そのうえで「コンテで何度か咀嚼(そしゃく)してみないことにはわからないことが必ずあって。そのおかげで演出の強度が上がった部分もある。無駄が見つかったりね」と解説した。
だが、フルデジタル化導入の最大の目的は、「アニメーション監督・神山健治の表現の追求」ではないという。「個人的なことを言えば、紙だろうがCGだろうがなんでもいいんです。どちらかというとスタッフのことを考えてっていうか、デジタル化した方がスタッフがハッピーかもなと。手描きで作画をする大変さを考えたら、今なら紙よりもデジタルの方がやってて楽しいんじゃないかと、自分の体験から想像したわけです」。この言葉の通り、現場スタッフからは「やり直しがいくらでも出来るので、モチベーションが下がらない」「原画を描くのは、面倒くささとの戦い。そこのハードルは下がるかも」といった声が上がっていた。神山監督も「僕も楽しいですね。同じペンを動かしながらの作業でも、タブレットだとゲーム感覚で出来る。いくつかのツールを組み合わせることで、今まで力技で描き上げていた絵が『パズルがはまった!』みたいな感覚で完成したりして、なんだか嬉しいんですよ」と無邪気な笑顔をのぞかせた。
「ひるね姫 知らないワタシの物語」は、居眠りばかりしている女子高生・森川ココネが、いつも見る不思議な夢を通して家族の秘密に迫っていく姿を描く。2017年3月18日から全国公開。
(C)2017 ひるね姫製作委員会
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