「フィッシュマンの涙」は韓国社会に対する無力感から生まれた!カンヌに輝く俊英が“原点”を解説
2016年12月16日 17:00

[映画.com ニュース] 第66回カンヌ映画祭短編部門パルムドール受賞作「セーフ(原題)」の脚本を手がけたクォン・オグァン監督が、長編映画デビュー作「フィッシュマンの涙」について語った。
就職難にあえぐフリーター、パク・グ(イ・グァンス)は新薬治験に参加したことをきっかけに、人間と魚を組み合わせたような“魚人間”に変異してしまう。パクの姿はインターネットやテレビといったあらゆるメディア上を飛び交い、一気に注目を浴びるが、同時に差別の対象にもなり、さらに事件を引き起こした製薬会社のもみ消し工作に巻き込まれ、居場所を失っていく。
不気味ながら哀愁を漂わせた魚人間の姿が目を引くが、クォン監督は何から着想を得たのか。「私はしょっちゅう図書館に入り浸って、写真やイラストをたくさん目にしていました。ある日、ルネ・マグリットの『共同発明(Collective Invention)』という絵を見つけ、1人の魚人間が砂浜に横たわっているその絵に、目が釘付けになりました。画家の意図やメッセージが何であったにせよ、私はその絵が滑稽でとてつもなく寂しいと感じました。たまたまその日が、そういう気分だったのかもしれませんが、その絵から伝わってくるバカバカしさと無力感が、私だけでなく今の韓国に住む同世代の人たちに通じるように思えたのです」。シュルレアリスムの代表的作家として名高いマグリットにインスピレーションを受けたクォン監督は、本作の原題にも同じタイトルを使用している。
クォン監督に影響を与えたのは、母国・韓国の社会情勢も大きかった。「本作のアイデアを思いついた当時、韓国にはさまざまな社会政治的な問題が発生しており、それらはコメディ以上に不条理なものでした。政治、マスコミ、社会全体が腐敗にまみれ、信じられないような不祥事が毎日のように新聞をにぎわせていました。これらの問題は何の変化ももたらすことなく、社会は依然として同じままで、私を含めた若い世代は深い無力感にとらわれました。ルネ・マグリットの絵を見てどうしようもない無力感を覚えたのも、時勢のせいだったに違いありません。人間の足と魚の頭部を持った男のユニークなイメージを見て、グロテスクまでにゆがんだ韓国と、行き詰まりを感じて深い憂うつにとらわれた若者たちの姿を描く映画を作りたいと思ったのです」。
クォン監督の言葉に象徴されるように、本作では、魚人間という“異物”が入り込んだことで人々の本性が浮き彫りになっていくさまがシニカルな目線で描かれている。同時に、若者の就職難といったテーマを掘り下げ、現代社会に警鐘を鳴らす。「『フィッシュマンの涙』に関しては、ウッディ・アレン映画に見られる不条理なイマジネーションや、ジャン=ピエール・ジュネとティム・バートンのエキセントリックな表現、コーエン兄弟のブラックコメディに影響を受けたと思います」と語るクォン監督は、「段々と変異を遂げて魚になっていく人間と、むしろその魚人間以上に突然変異体のような周囲の人間たちを描きたいと思いました」と解説した。
「フィッシュマンの涙」は、「オアシス」「ポエトリー アグネスの詩」で知られる名匠イ・チャンドンが製作総指揮を務める。12月17日から全国公開。
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