松田龍平×山下敦弘監督、不安の先に見つけた絶対的な自信
2016年11月2日 08:00

[映画.com ニュース] 独自の世界感を持つ“おじさん”のおかしくも愛おしい日常を、小学生の目線で描いた映画「ぼくのおじさん」が公開される。芥川賞作家である故北杜夫さんが1972年に発表した児童文学を、山下敦弘監督が大胆にアレンジし、松田龍平がダメな“おじさん”を体現。松田いわく「他愛もない話」。それを心あたたまるエンタテインメントに昇華させたふたりに話を聞いた。
“おじさん”は、兄夫婦の家に居候し、大学の臨時講師で哲学を教えているせいか、いつも屁理屈をこね、甥の雪男(大西利空くん)をダシに義姉から小遣いをもらい、万年床でマンガばかり読んでいるダメな大人。そんなおじさんが、ハワイの日系4世・稲葉エリー(真木よう子)に恋をし、エリーを追いかけて雪男と出向いたハワイで騒動を繰り広げる。
山下監督は、初タッグとなる松田の魅力を「不思議な色気がある。それを自ら出そうとしているわけじゃなく、勝手にこっちが読み取ってしまう」と語る。劇中の“おじさん”とは程遠いイメージにも思えるが、「今回はそれがすごく柔らかかった。すごくじっくりできたというか、良い距離感で作れた」という。一方の松田は、「山下さんは生々しい人間くささを撮るイメージもあったし、ちゃんとおじさんを着地させてくれるような安心感があった」と信頼を寄せる。
山下監督の「もし僕が子どもだったら、こういうおじさんがいたらすごく良い。僕の親戚のお兄ちゃんにも子どもと同じ感覚で遊んでくれる人がいたけど、確かにその人は働いていなかったな(笑)」という言葉で、エリーが「素敵なおじさんだと思うな」とつぶやくシーンと、雪男の担任・みのり先生を演じた戸田恵梨香の「おじさんのファンになっちゃったもの」というセリフが蘇る。確かに“おじさん”は、言いようのない魅力を秘めている。
松田は、ほかの大人とは違う感性で生きるおじさんを演じる上で「“叔父さん”というより、ひらがなの“おじさん”感」を追及した。「人の言葉を意に介さない。とにかく影響を受けない人。だからそれが変に“自分の世界でしか生きられない”風になって欲しくなかった。僕はどちらかというと影響を受けすぎて、すぐ落ち込んじゃう。だからついそういう(人の影響を受けやすい)おじさんを演じたくなるけど、山下さんは『ここは自信を持っていって欲しい』と。背中を押してもらっていましたね」
しかし、初めて台本を手にしたとき、キャラクターの強烈さに混乱状態に陥ったという。「(オリジナルストーリーになる)後半のおじさんをどう成立させるかというのが、自分にとっても不安がありました」「山下さんに『これ、どうなんですかね?』って聞いたら、『ちょっと僕もわかんないんだよね』と言われた。それで『お、やばいぞ』って(笑)」
笑いをこらえながら聞いていた山下監督が、「でもそれで、同じポイントで不安になっているなっていうのがわかった」と“ポジ変換”。松田も「すり合わせができた」とうなずき、「結局、誰にも頼れない状況でお互い頑張ったってことなんだろうけど(笑)」と振り返った。
いざ撮影が始まっても消えなかった不安感を、ふたりは「いい思い出」と言わんばかりに笑い飛ばす。完成した作品への絶対的な自信がそうさせている。「完成作を見るとすごく面白い。あんなに不安だったのに、『妙だぞ?』と(笑)」(松田)
松田は、おじさんが「(自らを)見つめ直す瞬間をずっと求めていた」と話し、終盤のおじさんがハワイの夕日を見ながら雪男の手を握るシーンで、それが見られたとほほ笑む。「良い時もあれば悪い時もあるのが人間だと思うし、人生だから。おじさんがいつそれに気付くのかなと思っていたんですよ」。これに山下監督も「そういう作業だった気がします」と同意。「どう人間としての温度を感じさせるかというのは、やりながらしかわからなかった」と“戦友”松田に目をやる。
近い将来、このふたりのタッグをまた見たい。欲を言えば、ふたりが四苦八苦しながら作り上げるダメな“おじさん”のその後が見たいと思わせられた瞬間、松田から嬉しい言葉が飛び出した。
「たぶん、パート2はどシラフのおじさんから始まる。戸田さんがびっくりするっていう。『話が違う、こんなおじさんじゃない』って(笑)」
「ぼくのおじさん」は、11月3日から全国で公開。
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