河瀬直美監督、若手を育成支援する「なら国際映画祭」は「出会いの場」に
2016年9月23日 15:00

[映画.com ニュース] 奈良の平城遷都1300年目となる2010年から隔年で開催されている「なら国際映画祭」。4回目となる今回は、4日間から6日間に会期を延長し、国内外の短・長編計95本の作品を紹介、3万1451人を動員した。自身が育った奈良で映画祭を開催する理由や映画祭に込めた思いを、エグゼクティブディレクターの河瀬直美監督に聞いた。
3月に総事業費の3分の1にあたる補助金1260万円が奈良市議会で全額削除され、開催が危ぶまれるという事態に陥った。77社から協賛を得、一般から1万円で参加できるレッドカーペットクラブ会員という制度を設け、オープニングまでに820人もの会員を集めた。
「補助金カットの後、支えようとしてくださった方たちが、オープニングにこぞって来てくださった。斎藤工さんのように誰しもが知っている人も、同じ経験を共有できたことが、私たちの価値になる。みんな良い気分で帰ってくださっているから、一個一個の種が膨らんで芽を出し始めるようなワクワク感がありました」
大型台風が接近し、雨も予想されていたオープニングの9月17日、河瀬監督が映画祭前日に月に好天を願ったと話せば、それを受けた荒井正吾知事が返歌のように阿倍仲麻呂の歌を詠み、万葉の時代さながらのやりとりが、春日野で繰り広げられた。
「天気のいい秋晴れの日にも、実はあそこ(春日野園地)には、普段はほとんど人がいないんです。昼間に行って、ボーっとしているといろんな考えを深められる。そういう場所がいっぱいあるのが奈良の魅力。お寺にしても、国宝級の仏像があったり、素敵なお庭や毎日写経をやっいてる場所もあるので飽きないと思います。一見何もないけれど、じっくり自分自身を考えられる場所」と奈良の魅力を挙げる。
春日大社、興福寺、東大寺など世界遺産に登録された社寺仏閣が点在する奈良公園周辺には、神の使いといわれる野生の鹿たちがマイペースに草を食む。日本古来の風景が広がり、ゆるやかな時の流れを感じる。
「経済的に潤っているかどうかという価値基準で測られて、奈良の子どもたちが自分たちは劣っているとか、よそに出ていかなければと考えてしまうようなことは悲しいし、間違い。だから、外の人に評価していただくことで、自分たちが住んでいる場所が素敵なところだと思ってもらえるよう、私たちの世代が何とか踏ん張って、伝えていかなければ」
奈良の良さを再確認し、次世代につなぐという役割、そして、奈良から世界に飛び立つ若者を育成したいという志のもとに映画祭が始まった。若手映画作家の支援に力を注いでおり、木下グループが才能ある日本人作家を発掘、支援するプロジェクト「木下グループ新人監督賞」との連携も発表された。
「才能があっても、短編でしか作品がつくれなかったり、パイロット版だけ作っていつか長編作ろうと考えている若者がたくさんいる。アイデアがたくさんあるのに、形にならない時は、プロデューサーの目で形にしていくことが必要だけれど、なかなかそういう人も現れない。リスク回避で製作委員会方式が主流になっている中、木下グループでは、ちゃんと作品を作り、配給も整えてということをやろうと思われていたそう。私たちの映画祭も新人の後押しをしているので、うまくコラボレーションできたら良いと思った」
映画祭は「出会いの場」だと語る。「そこで会ったプロデューサーや企業とコラボして、何かを作ることもできる。若手の作家には、特に海外の人と出会ってほしい」と望んでいる。次回以降の取り組みとして、国内外の記者に質問できるようなイベント、世界で活躍できる人材を育てる通訳インターン、子供審査員が作品を選ぶプログラムなどを構想中だ。
「行政を巻き込んで、子供たちに映画祭でインターンのような役割を担ってほしい。小さい頃から、テレビのようにわかりやすいものばかり見ていると、世界の映画を見たときに、何のことかわからなくなっていく。それは感受性だと思うのですが、自分の見方ができる子供たちが育っていくことに力を入れたい。長編よりも短編で子供審査員のプログラムを作りたい」と意欲を語る。
本業の映画監督としては、昨年ロングランヒットを記録した「あん」に続く長編新作の企画を準備中だ。映画祭も並行して取り組む、そのエネルギーの源はどこにあるのだろうか。
「すべてが自分ごとです。何かが自分の中で足りないから、それを埋めようとしている。例えば20代の時の自分はこうだった、そこをもう少し後押ししてくれる人がいれば、あの時、時間をかけずにもう少し出来たのに……とか。自分の経験や考えていることが、原動力になっている。自分で発したことは、自分で形作っていかなければ。誰かや何かのためだと続かないと思います」
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