主人公は51歳の失業者、100万人動員の社会派作品でカンヌ受賞の仏名優バンサン・ランドンに聞く
2016年8月26日 12:00
[映画.com ニュース] フランスで観客動員数100万人を記録したフランスの社会派ドラマ「ティエリー・トグルドーの憂鬱」が8月27日公開する。本作で2015年カンヌ映画祭主演男優賞を受賞した主演のバンサン・ランドンが来日し、作品を語った。
「母の身終い」のステファヌ・ブリゼ監督と名優バンサン・ランドンが再びタッグを組み、妻と障害を抱える息子と暮らし、失業した主人公がスーパーの警備員の職に就く。客だけでなく、同僚たちの不正も監視し、会社へ告発する仕事だ。しかし、ある日、告発により従業員の一人が自殺する。己の矜持と社会のしがらみの中で板挟みになる姿を、ドキュメンタリータッチの映像で描く。2015年のカンヌ映画祭で、ランドンが主演男優賞、ブリゼ監督がエキュメニカル審査委員賞を獲得した。
当初この作品がヒットするとは思わなかったと告白する。「主人公が51歳の失業者で、その子供は障害を持っている。そして仕事を見つけてまた失う……とにかく、条件だけで観客の足が遠のく要素ばかりでした。ですから、とにかく低予算でやろうということになりました。そうすることで方々の圧力から逃れることができます。そして、フランスで5000人が見てくれればよいという気持ちでスタートしました。しかし、カンヌ映画祭ディレクターのティエリー・フリモーからコンペ入りの話を受け、そして賞をとり、フランス中で評判になったのです」
そして、演技経験の無い一般人が出演していることも、観客動員につながったのではと分析する。「やはり、リアリティがありますし、ドキュメンタリーに近い手法で撮られているので、自分たちの人生と近いものが描かれていると感じたのでしょう。この映画はうそを語ってはいないのです。とても残念なことではありますが、現実に忠実なのです。これが私たちの日常で、世界的に普遍的な日常なのです」
まず演じる人物の外見やしぐさなどを入念に作り上げていくという。「私にとって重要なことは形式であって、内容ではないのです。まず形から入れば、内容は後からついてくるものと思います。もし、その主人公、役の人物がどんな自動車に乗って、どんな服を着ているかということを無視して、心理描写のみを念入りに勉強したところで、そうして演じたものは決して信じられるものではないと思います。人は見かけによらないといいますが、私は、人は見かけによると言いたいです」
形式からアプローチするやり方で、社会の低層で生き、感情を抑えたせりふの少ない主人公を演じることは難しくはなかったのだろうか。「この役が5年前に来ていたら、難しく感じたでしょう。今回は十分に自分の中で演じる準備ができていたと思います。こういったことは、恋愛と同じだと思います。愛し合っている二人が、こんなに愛し合えるのだったら、もっと前に出会えていればよかったという話をすることがありますが、私はそうは思いません。おそらく、もっと以前に出会っていたら、好きになってはいないと思うのです。若すぎるということなのです。私のこの役も、今の私にちょうど良いタイミングで来たのです」
「ティエリー・トグルドーの憂鬱」は8月27日から、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開。
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