悪夢がきっかけ イエジー・スコリモフスキ、最新作「イレブン・ミニッツ」を語る
2016年8月19日 17:00
[映画.com ニュース] ポーランドの巨匠イエジー・スコリモフスキ監督の5年ぶりとなる最新作「イレブン・ミニッツ」が、公開される。都会で暮らす複数の人物が登場し、午後5時から11分の間に彼らに降りかかるドラマをサスペンスタッチで描く。来日したスコリモフスキ監督に話を聞いた。
女好きの映画監督、嫉妬深い女優の夫、刑務所を出たばかりのホットドッグ屋、強盗を企てる少年ら、いわくありげな人物と、一匹の犬の視点で見た日常をモザイク状に構成し、驚愕のラストシーンまで緊張感あふれる展開が続く。
ある晩見た悪夢が、この作品の構想のきっかけになったと明かす。「具体的な映像ではありませんが、何か世界が崩壊していくような、イメージや空気がありました。夢から目覚めた後に、この夢の中に出てきたひとつの要素を再構成しようと思ったのです。その場所として思いついたのが、ホテルです。宿泊客、訪問客、従業員……このように登場人物が次々に増えていきました」
時間の制約をつくって書き上げた脚本、監視カメラやカメラ付き携帯など様々なデバイスで撮影した映像、都市にあふれるノイズとももとれる様々な環境音を用い、一寸先は闇ともとれる、混沌とした現代社会を生きる人間の光と影を表現した。
「それぞれの映画で、私の想像力が動き始めるきっかけになるものは違います。例えば『エッセンシャル・キリング』の場合は自動車でスリップして、路肩に落ちそうになった経験を映像で伝えたいと思ったのがきっかけです。幸い生き延びましたが、そのことが想像力のスイッチを入れて、物語ができたわけです。そして今回は世界崩壊の夢です。その中の個々の要素、カタストロフィーの連鎖が夢に出てきて、物語の衣装を着せていったのです」
「5時から5時11分までの物語を書き上げ、私が感じたのは、観客にもう少し情報を与えたいということ。つまり、この中の登場人物のうちの何人かについて、補足的な情報を与えたいと思いました。補足的な情報であるのなら、映画の全体が撮られている横長のパノラマの画面ではない、別のやり方で提供したいと思ったのです。こうして、映画の本編とは別の5分間のプロローグが出来上がりました」
冷戦の影響で長年故国を離れたが、ヨーロッパを代表する映画作家として半世紀にわたり意欲的な作品を発表し続けている。若々しい感性を保ち続けている理由をこう語る。「様々なことに衝撃を受ける感性が大事だと思うのです。そして、自分の内側にあるものを吐き出す気持ち。生活におけるある種の刺激がきっかけになって、それを創作に変えていくのが私のプロセスです。私は常にテーマを探しているわけではなく、テーマのほうが私を引っ掛けてくるのではないかと思っています」
そして最後に、映画製作を志望する若者に向けてメッセージを寄せてくれた。「もし、私が何か助言できるとすれば、自分が良く知っていること、人生で経験したことについて作りなさいということですね」
「イレブン・ミニッツ」 は、8月20日ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。
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