【パリ発コラム】同時多発テロは映画界にも影響 ジハーディスト描いた作品の公開延期も
2015年11月29日 07:30
[映画.com ニュース]11月13日にパリを襲った同時多発テロは、人々の生活と精神面に大きなダメージを与えたことはもちろん、さまざまなところに思わぬ影響をもたらしている。映画界も例外ではない。映画館への客足が減っただけでなく、作品のリリースにも影響が出ているのだ。
偶然のいたずらと言うべきか、11月18日に公開予定だったニコラ・ブークリエフ監督の新作「Made in France」が、今回のテロ事件とあまりに似通った内容のため公開延期になってしまった。そもそもエッフェル塔とカラシニコフが重なるポスターのデザインがショッキングであり、街頭やメトロの構内に張り出されていたものの、テロの翌日に回収された。その後、プロデューサーと配給会社の判断で、公開延期が決定されたという。
物語は、パリ郊外の原理主義グループに潜入するフリーのジャーナリストの視点から描かれる。彼が4人のジハーディストの若者と知り合って行動を共にするうちに、彼らがパリを襲うミッションを受け、ジレンマに追い込まれるというもの。今年1月にパリで起きたシャルリー・エブド襲撃事件以前に製作されたそうだが、まさに現実が映画を追う形となってしまった。
アルジェリアとフランスのハーフでフランス生まれのブクリエフは、マチュー・カソビッツの「アサシンズ」で共同脚本を務めた他、これまでアクション映画を得意としてきた監督。本作のためにリサーチをおこなった彼は、当時はまだシリアとジハーディストよりもアフガニスタンとアルカイダが耳目を集めていたと断りつつ、彼らが若者を洗脳するやり方についてこう語る。「今日、まだ10代の多くの若者たちが、危機にさらされている。イスラム過激派たちの勧誘は巧妙だ。彼らは若者たちに強制したりはしない。一緒にサッカーなどをしながら彼らと親密になり、やがて集会に参加してみないかと徐々に誘いこむ」
こうした彼らのやり方に注目し、いち早くスクリーンに取り上げて見せたのが、2011年に製作されたフィリップ・フォコンの「La Désintégration」だ。すでに11本の長編を撮っているフォコンは、日本にはあまり紹介されていないが、今年の10月にはシネマテークで特集上映がおこなわれるなど評価が高い。本作では、郊外に住むふつうの教育を受けたアラブ系の若者が、就職難のなかでイスラム過激派に洗脳され、最後はテロリストになる過程を克明に描いた。そこには、いまだ根強い人種差別のなかで困難な生活を強いられ、フランス社会に溶け込めない移民たちの姿がすくいとられている。
他にも、現実とリンクする注目の新作が2本ある。ひとつはジャック・オーディアール監督作(『預言者』『君と歩く世界』『ディーパンの闘い』)の脚本家として知られたトマ・ビデガンの監督デビュー作「Les Cowboys」。突然失踪した16歳の少女を家族が捜索するうちに、彼女がアラブ系の青年に恋をしていたこと、彼はどうやらイスラム原理主義者であり、ふたりは国外に渡ったことがわかるというストーリー。まったく娘の心情を知らなかった家族の衝撃と、執念で彼女を追いかける父と弟の姿が胸に迫る。
もう1本は、批評家出身で編集、脚本を手がけていたニコラ・サーダの監督デビュー作「Taj Mahal」。こちらは2008年にインドで起きた実際のテロ事件を元にしている。父の転勤でボンベイを訪れた少女が、タージマハール・ホテルに宿泊中、テロリストの襲撃に遭い、室内に隠れて命拾いをした体験を、「ニンフォマニアック」のステイシー・マーティン主演で描く。2作とも、公開日の変更はない様子だ。
奇しくも映画が現実に倣うだけでなく、その逆の事態が起こってしまった今回。パリ市民は果たして、これらの作品をどう受け止めるだろうか。(佐藤久理子)
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