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「バロットの大地」監督&キャスト、心に染みる一編について熱く語る

2015年10月30日 22:55

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「バロットの大地」について熱心に語った ポール・サンタ・アナ監督ら
「バロットの大地」について熱心に語った ポール・サンタ・アナ監督ら

[映画.com ニュース] 父の遺言でアヒル農場を相続することになったジュンは、売却するつもりで故郷の村を訪れる。結婚を約束した恋人もいて気持ちに迷いはないはずだが、素朴な人々や美しい風景を受け容れるうちに、心閉ざして生きてきた自分を顧みるようになり……。人間が成熟する姿を描いたじんわりと心に染みる一編。TIFF2011・最優秀アジア映画賞「クリスマス・イブ」の脚本家、ポール・サンタ・アナの監督第2作。来日した監督と俳優が熱心に語ってくれた。

充実した短編小説のような味わいの作品ですね。

ポール・サンタ・アナ監督(以下、サンタ・アナ監督):大学で文学を専攻し、詩を書いていたので小説もよく読みました。脚本家として活躍して、監督の声がかかるようになったんです。

都会と田舎、遺言で土地を譲り受ける息子と貧乏な農夫など、作中にはいろんなコントラストがありました。

サンタ・アナ監督:そうしたコントラストを設けることで、主人公が自分のルーツに戻ることの大切さを伝えようとしました。また、眼前の出来事に心を閉ざさずにいることが人間を成長させると見せたかった。そのためにも彼が子ども時代に過ごした場所へ戻る設定にしました。

アヒル農場のあるカンダバは、大きな湖や渡り鳥がやってくる湿原のある大変美しい土地ですね。

サンタ・アナ監督:実はマニラの近くのパテロスという街が、もともとはバロットの産地でした。今でも加工工場が多くあって、主人公がひょんなことから立ち寄るエピソードはここで撮影しました。パテロスでは地元の川が汚染され、大量の水が必要なアヒルの飼育ができなくなり、農場の多くが移転していきました。どこに移転したのか調べたところ、パンパンガ州カンダバが盛んな土地だと知り、ロケハンに行ったらあまりの美しさに心打たれました。湿原の向こうに見えるアラヤト山も、映画に風格を与えてくれたと思います。

ジュンを演じたロッコさんは、先日、歌舞伎座でジョン・ウー監督と一緒に写真を撮っていましたね?

ロッコ・ナシノ(以下、ロッコ):自慢です(笑)。他の来場者は遠巻きに彼の写真を撮るだけでしたが、僕は彼が用を終えるのをじっと待っていました。東京国際映画祭と監督サイドから許可を得て、一緒に写真を撮ることができました。もう感無量です。

ジュンは最初、世間に無関心な人物として登場しますが、最後には周囲と死んだ父親を受け入れます。感情をあまり表に出さないぶん、迷いから解き放たれた最後の笑顔が印象的でした。

ロッコ:演じるにあたって思ったのは、ジュンの旅は僕自身の来歴とすごく重なる部分があるということでした。実は、僕の祖母も母もパテロスの出身で、そこでアヒル農場をしていました。この役に決まって、母と祖母を以前よりも訪ねるようになり、もっと親密になりました。このようにジュンと僕の人生が似通っていたことが、演じるうえでもプラスになりました。難しい役でしたがリアルな感情を入れ込むことができたと思います。

ミュージシャン役として劇中で披露する歌声も素敵でした。

ロッコ:曲は映画のためのオリジナルで、監督が歌詞を書きました。監督のロマンチックな一面がうかがいしれます(笑)

サンタ・アナ監督:ロッコには音楽の才能があります。以前話した時にドラムを叩くと聞いたので、ジュンをミュージシャンにしたのです。

クリスマさんは監督が脚本を書いた「クリスマス・イブ」(11)でも製作に関わっており、監督とのつきあいも長いです。今回はどんな経緯で、2人で作品を作ることになったのでしょう?

クリスマ・マックラン・ファハルド(以下、クリスマ):私たちはとても仲の良い友人です。大喧嘩できるし、互いに同意しないことがあってもいい。相異なる考え方をしていることで、合意するという結論の出し方もできます。夫のローレンスとも仲が良く、彼が撮った「アモク」(11)ではクリエイティブ・コンサルタントを務めてくれたし、2012年のシネマラヤ映画祭に出品した監督デビュー作の「Oros」(日本では未上映)では、ローレンスが編集で参加しています。これは世界各地の映画祭に招かれ好評を博しました。それから3年経ち、次回作をつくるのに機が熟したと思い、シナグ・マニラ映画祭の脚本を対象にした助成制度のことを話しました。

サンタ・アナ監督:昨年の10月中旬に脚本を完成させる予定でしたが、11月になってもできなくて、自分ではもう駄目だと思っていました。クリスマが私を信じて、「大丈夫よ。できるから」と励ましてくれなければ、この映画は完成していなかった。彼女に感謝しています。

クリスマ:いい作品になると確信していたので、私は猛プッシュしました。私よりも穏やかな性格のプロデューサーなら、監督ができないと言えばそこで諦めていたはずです。誰よりも監督のことを買っていたので、絶対にやり遂げるんだと気力で押し切りました。

(取材/構成 赤塚成人)

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