キドラット・タヒミック監督が35年間も撮影を棚上げして取り組んだことは?
2015年10月30日 13:55
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[映画.com ニュース] マゼランの世界周航には裏話がある。彼はフィリピンのマクタン島で殺されたため、世界一周を果たしていない。マゼランに身請けされたフィリピン人奴隷エンリケこそ、西洋に連れて行かれた後、自分の国に帰ってきた最初の世界周航者なのだ。「お里帰り」はこの知られざる事実に、旺盛な土着文化への関心を盛り込み、西洋的な人間観を超える東洋的英知を遊び心たっぷりに示した作品。アジアの賢者の語りは、終始、感動的な温もりを湛えていた。
キドラット・タヒミック監督(以下、タヒミック監督):私は自分の映画を追究したいだけです。その意思決定にプロデューサーと資本家が入る余地はありません。撮りたいものが撮れないのは嫌で、インディーズの道を選びとった。だからお金があれば撮影し、なければ中断するだけの話です。もう少し実情を話せば、1980年代に3番目の子どもが生まれて、幼い3人の子どもたちとゆっくり生活したいと思いました。彼らの友人になりたくて、長期間、撮影を棚上げしました。
タヒミック監督:私は仕事の奴隷になりたくはありません。いまは撮る時じゃない。期が熟せば自然とうまく作れるさ。こうした宇宙の声を聞くことが、私のインスピレーションの源泉です。コッポラにはシンパシーを感じています。彼が「地獄の黙示録」を撮った時、1~2年で撮影を終えるはずが4年もかかってしまいました。でも、コッポラはきっと私と同じように宇宙のお告げを待っていたのじゃないか。いまは撮るべきじゃない。その時が来たら、インスピレーションが湧くだろう。そうした芸術家の感覚がある人だと思います。私の「悪夢の香り」(77)をアメリカで配給してくれたのもコッポラでしたね。
タヒミック監督:1978年に「月でヨーヨー」(81)を構想している時、マゼランの世界一周にフィリピン人が絡んでいたという話を耳にしました。当時の奴隷は、奴隷になった地域名に名前をつけて呼ばれるのが一般的で、そこで彼も「マラッカのエンリケ」と呼ばれていました。
タヒミック監督:実際に、フィリピンのどこの出身なのかは不明です。でも芸術家としては、自分のよく知る文化との共通項を設けたかった。私は北方のイフガオ出身で、そこに住む先住民族のことも知っていたから、彼をイフガオ出身としました。私も17年前からイフガオ族の一員になっています。だから映画の後半のパートでは、その文化や伝統が濃厚に出ているはずです。
タヒミック監督:イサベリータのことはあまり資料がないため知られていません。彼女のキャラクターを作ることで、カルロス1世との関係を含めて面白みを出そうとしました。
タヒミック監督:歴史というのは日付に即して事実を語るものです。しかし人間ですから、裏にはいろんな出来事があったに違いありません。自分はアジア人として、エンリケに人間性を吹き込みたかった。彼にもいい出会いがあったはずです。私の映画では遊戯性は大切な要素です。エンリケとイサベリータが子どものように遊ぶことが、歴史に影響を与えることもできたはずだと想像しました。
タヒミック監督:ロペスはわが心の師です。私は西洋のハイレベルの教育を受けた人間です。フィラデルフィアの大学でMBAも取得しました。ロペス・ナウヤックは、イフガオ族に伝わる伝統と英知を体現する人物で、石の彫刻を作りながら、滅びかけていた棚田を再生し、植林活動を展開しています。彼と出会い、自分を育んだ伝統文化のことを深く考えたいと思った瞬間に、私は大学の卒業証書を破り捨てました。それだけの衝撃を彼は与えてくれたのです。冒頭をロペスから始めるのはその証しであり、彼が映画全体をつなげる重要な人物となっています。この12月に、パリでCOP21・京都議定書締約国会議が開かれますが、彼に思いを馳せれば、諸問題への非西欧的な対処法が見えてくるはずです。
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