「フリーダ・カーロの遺品 石内都、織るように」2人の女性アーティストと向かい合った小谷忠典監督に聞く
2015年8月7日 16:00
[映画.com ニュース]近代メキシコを代表する女性画家フリーダ・カーロの遺品の数々を、世界的に活躍する写真家・石内都が撮影をする過程を収めたドキュメンタリー作品「フリーダ・カーロの遺品 石内都、織るように」が公開される。カーロの記憶を内包する遺品を石内が切り取っていく姿、メキシコ独自の死生観を映した小谷忠典監督に話を聞いた。
2012年、カーロの死から58年の時を経て、メキシコ人のキュレーターの発案によりカーロの遺品を撮影する企画が立ち上がり、日本人としては3人目となるハッセルブラッド国際写真賞を受賞した石内が依頼を受ける。メキシコシティのフリーダ・カーロ博物館で、カーロのアイデンティティを支えた伝統衣装やアクセサリー、17歳の時に瀕死の重傷を負ったバス事故の後遺症からの身体の痛みを想起させるコルセットや医薬品など、膨大な数の遺品を石内が撮影していく。
小谷監督が石内の作品と出合ったのは学生時代。人間が生きる痛みや傷を写す石内の写真に強く心を動かされた。「傷跡を写した写真を見て、ぼろぼろ泣けてきたんです。そこから15年くらい石内さんの作品を追いかけています。石内さんの写真からは弱さや悲劇というものよりも、生きる強さが伝わってくる。世間や社会でネガティブに扱われるものを美しく肯定している、そこが一番の魅力」と話す。
映像に携わるようになり、被写体として写真家・石内都を撮りたいという思いを長年抱いていた。「自分の作品にとても大きな影響を及ぼしてくれた方なので、何かの形で対峙して、向き合わないと、自分の新しい表現ができないのではないかという思いがありました」という自身の思いを石内にぶつけ、メキシコ行きの直前に撮影の許可を得て共に渡航した。
当初、石内はそれほどカーロの人生に深い思い入れはなかったようだが、撮影を進めるうちに変化を感じた。「前半1日、2日目は、美術館側のスタッフが意気込んでいて、フリーダの義足だったり、コルセットなどを持ってきました。石内さんもそのような誰もが知っているフリーダを象徴するものを撮っていたのですが、3日目くらいに、民族衣装の修繕の後を発見し、石内さんとフリーダがグッと重なったような感じを受けました。そこから、有名な画家としてではなく、一人の女性として付き合い出したという感じがします」と振り返る。
3週間のメキシコ滞在中に、石内は友人を亡くした。石内が訃報の電話を受けた場面もそのまま本編に収めた。「映画の本筋に関係ないといえば関係ないのですが、編集を進めていくにあたって、石内さんもフリーダも、死をきっちり作品に落とし込んで、向かい合っている作家だと感じました。僕もこの映画でそういうふたりを描いている以上、あのシーンは使わなくてはいけないという気持ちになったのです。本編では石内さんの友人の死というパーソナルな場面から、いっきにメキシコの伝統的な行事『死者の日』へとつながっていきます」
そこから1年半後、小谷監督は再びメキシコを訪れ、カーロが愛したオアハカ地方の民族衣装の刺繍家やダンサーなど、市井の人々を取材。メキシコの風土や引き継がれる伝統、現在を生きるメキシコ女性の姿をカメラに収めた。「石内さんがフリーダの遺品を撮っているということだけでも、十分作品になると思ったのですが、石内さんを撮影していく中で、変化が起き、最初フリーダ・カーロ個人を見ていたのが、だんだんメキシコの文化や歴史を石内さんの歴史の中に収めていくという、こちらからは目に見えない作業がたくさんありました。そういう部分を映画で可視化したかったのです」
2人のアーティストを軸に、時間と場所を越え、女性たちの力強い生き方を映し出す作品に仕上がった。「いつも映画を作るときに、作品の持つ頂上をイメージして作っていくのですが、いつもなかなか思うようには登れません。でも今回は、本当に自分が最初にイメージしていたものよりも、上までいけた作品だと満足しています」と手ごたえを感じている。「ドキュメンタリーもの、アートものとして括るのではなく、是非ひとつの映画として見て欲しいです」とメッセージを寄せた。
「フリーダ・カーロの遺品 石内都、織るように」は8月8日、シアター・イメージフォーラムで公開。
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