「伝えなければならない真実」メキシコ麻薬戦争の光と闇を映す「皆殺しのバラッド」監督に聞く
2015年4月10日 21:30

[映画.com ニュース]2006年12月1日にメキシコ政府は麻薬産業撲滅のため、密売人たちに宣戦布告し「麻薬戦争」を遂行。しかし、麻薬組織は警察への襲撃を繰り返し、また、麻薬組織同士の抗争も勃発し、これまで12万人以上の死者を出す惨事となっている。同地を取材したイスラエル出身の米国の報道カメラマン、シャウル・シュワルツが麻薬戦争の裏側に踏み込んだドキュメンタリー「皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇」が、4月11日に公開される。このほどシュワルツ監督が来日し、撮影を振り返った。
映画では、年間3000を超える殺人事件が発生するものの、その99%が放置され「世界で最も危険な街」と言われるシウダー・フアレス。同所を中心に、麻薬から街を守ろうと奮闘する警察官と、北米のラテン系コミュニティの若者たちが支持する、麻薬カルテルを英雄として称える音楽ジャンル“ナルコ・コリード”の歌手という二人の人物の姿を通し、メキシコ麻薬戦争の光と影を浮き彫りにする。
2008年から同所に赴き、2年間はスチル写真を雑誌や新聞に発表していたが、紙媒体で伝えられることに限界を感じ、ビデオカメラを回し始めた。「これまでいくつかの紛争地域で取材経験があり、そこには飛行機を乗り継いで現地に入って報道するジャーナリストが他にもいます。しかし、フアレスはテキサスから橋を渡って歩いていけるのです。紛争地域と違って、簡単に訪れることができるのに、そこで起きていることはまったく注目されていない。そこに強い物語と、自分が伝えなければならない真実があると感じたのです。特にナルコ文化はとても複雑で、写真では伝えきれません。隣国でこれほど多くの殺人事件が起きているにもかかわらず、アメリカ人はこのことにほとんど注目していませんし、単なるギャング同士の抗争だと思っている。しかし実際は、我々の理解をはるかに超える形で、アメリカが深くメキシコの麻薬戦争に関わっていることを伝えたかった」とジャーナリストとしての使命感が、本作製作につながったと話す。
(C)Narco Cultura. LLCシウダー・フアレスの警察官リチ・ソトと、ナルコ・コリードのスター、エドガー・キンテロ。対照的なこの2人を登場させた理由は「もともとこの題材を扱うに当たって、ふたつの側面を描きたかったのです。撮影を進める際に、我々の安全のために捜査官と共に行動することを考えました。そこで出会ったリチの物腰の柔らかさ、謙虚ではあるがフアレスという街をとても愛しているという人物像が映画に最適だと思ったのです。ナルコ・コリードについては、偶然カルフォルニアでライブを見て、その歌詞に怒りとショックを覚えました。エドガーがメキシコ系アメリカ人であること、カルフォルニア生まれではあるが、ナルコ・コリードを通して、ナルコカルチャーを生きている。そこに興味を持ち、出演を依頼しました」
この作品を通し、観客はメキシコで起こっている現実をスクリーンで知るが、麻薬戦争はすぐに解決できない根深い問題であり、鑑賞後に自身が何もできないむなしさや虚無感を感じる観客も少なくないだろう。「それが作り手である私の意図でもあるのです。皆さんが感じたことが、私がフアレスにいた8年で経験し、感じたことです。よくこの作品を見て何をしたらいいのかと問われますが、この件に関しては、そんなに簡単なことではないのです。作品見て何かを感じて、ディスカッションの始まりになることを望んでいます」
それでは、アメリカの麻薬中毒患者がいる限りメキシコの悲劇は終わらないのだろうか。「アメリカだけでなく、世界中どこでも麻薬の需要は変わらないでしょう。どの文化でも、麻薬がかっこいいような風潮はあり、いくら教育をしても、現実的には効果が無いと思います。メキシコでの麻薬関連の死者は、常用者よりもその周りにいる人たちが多いのです。ですから、周りの人を巻き込まない形でどのような社会を作れるかを考えなければいけない。一方アメリカでは、人口のおよそ2パーセントが投獄されており、そのほとんどが黒人やラテン系による薬物犯罪です。需要が変わらないのだったら、何をどのように変えていけばよいのか、我々は考えなければなりません。例えばマリファナの合法化は、アメリカのいくつかの州で進んでいて、個人的には賛成です。我々がすべきことは、麻薬を使う人がいるのであれば、その社会のために何ができるかということです」と自身の考えを語った。
「皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇」は、4月11日渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
(C)Narco Cultura. LLC
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