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仏注目の映画人ギョーム・ガリエンヌ「不機嫌なママにメルシィ!」に込めたエレガントな風刺

2014年9月26日 17:00

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演劇、映画界で注目されるギョーム・ガリエンヌ
演劇、映画界で注目されるギョーム・ガリエンヌ

[映画.com ニュース] フランスで今最も“旬”な映画人ギョーム・ガリエンヌが、本国フランスで観客動員数300万人を超える大ヒットを記録した快作「不機嫌なママにメルシィ!」を携え来日した。「イヴ・サンローラン」での好演も記憶に新しいガリエンヌが主人公1人2役を演じ、セザール賞5部門を受賞するなどフランス国内の映画賞を総なめにした話題作。ガリエンヌが本作実現までの道のりを語ってくれた。

3人兄弟の末っ子ギョーム(ガリエンヌ)は、女の子が欲しかったママに女の子のように育てられ、いつしかエレガントなママのようになりたいとあこがれるようになる。しかし、男らしいパパから強制的に男子校の寄宿舎に入れられ、イジメにあい、男の子との大失恋を経験するうちに、自らの人生に疑問を抱き始める。やがてギョームは本当の自分を見つけるべく旅に出る。

ガリエンヌ自身が、母に女の子のように育てられた過去をもとに描いた自伝的戯曲から生まれた映画。「ずっと映画のために温めていた物語だったんだ。まだ無名だった頃、オリビエ・メイヤーというパリ西部にある劇場の支配人から『何かやってみない?』とオファーをもらい、このチャンスを逃すわけにはいかないと思った。結果、舞台は2年間のロングラン大ヒット。モリエールの演劇賞も獲ったし、僕は『ギョームのボーナス』というパロディ番組などで人気になり、ついに念願の映画化が実現したんだ。舞台中はプロデューサーの人たちが楽屋にたくさん押しかけてきたよ」と成功秘話を語った。

ガリエンヌは、自身が監督・脚本・主演、さらに女装して母親役を演じることにこだわった。「僕が1人2役を演じることにこだわったのは、ひとりの人間が潜在的にもつ二面性を語りたかったからなんだ。彼は母親をただ模倣してるだけじゃなく、“体現”しているんだ。子どもはよく遊びで“物真似ごっこ”をするけれど、それとは全然違うもの。ギョームは外側の記号を真似するのではなく、その人物を感情を自分自身の中に感じて体現する。例えばウエスタン映画を見て、子どもがカウボーイの帽子のかぶり方やピストルの撃ち方を真似するけど、彼ならきっと荒野のセリフのイントネーションまでも完璧に表現してしまう。この映画は、ひとりの役者の誕生物語ともいえるんだ」。

ギョームの女の子のような振る舞いを見て、周囲はギョームをゲイだと決めつける。もちろん彼がゲイであるとしても問題はないのだが、ギョームはゲイではない。“男の子”に恋した“女の子”なのである。これは社会がいかにセクシャリティを“カテゴライズ”したいか、それによって名ばかりの“安心”を得たいかを示唆しているようにも見える。

画像2(C)2013 LGM FILMS, RECTANGLE PRODUCTIONS, DON'T BE SHY PRODUCTIONS, GAUMONT, FRANCE 3 CINEMA, NEXUS FACTORY AND UFILM

「そういったステレオタイプな先入観にも重きを置いてみようと思った。人はすぐにレッテルを貼りたがるし、家族の中でさえ“こうあるべき”というポジションがある。そもそもセクシャリティに境界なんてない。これはセクシャリティに関しての映画ではないけれど、『男だからこう振る舞わなければいけない』なんてことはなく、男性にだって女性性をもつ権利はあるんだ」。

役とはいえ、自分自身を赤裸々にさらけ出すことはとても勇気のいることだと思うが、ガリエンヌは「役者なら誰もがやってることさ」と笑い飛ばす。「『イヴ・サンローラン』でのピエール役(ローランのパートナー)は、もしかしたらこの映画以上に自分をさらけ出していたかもしれない。世阿弥も言ってるけれど、人間はみんな心にひとつの“花”を持っている。監督の演出や脚本によって姿形は変わるけれど、その“花”は常に役者につきまとうものなんだ」と、日本文化の造詣も深いガリエンヌならではの演技論だった。

斬新な場面転換や時間経過など、映画ならではの表現もゴージャスで愉快。「裕福なブルジョワジーを描いた映画なので、エレガントさにはとてもこだわったよ。映画は"転換の芸術”でもあると思うので、音がない映像だけでも観客が理解できるものにしたかった」と狙いを語る。

劇中のギョームは、周囲からの嘲(ちょう)笑も“笑い”に変え、自らの人生をたくましく切り拓いていく。しかし実社会でセクシュアリティに悩んでいる人々が、ギョームのようにを逆境を軽く笑い飛ばすことは難しいかもしれない。ガリエンヌも、自身の境遇には感謝しているという。

「映画の中のギョームは、ひょっとしたら幸せになれない男の子だったかもしれない。僕はラッキーなんだよ。僕の両親は厳しくて権威的なところもあったけれど、心に熱いものをもっていてオープンで教養もあった。優しさに包まれて育ったわけじゃないけれど、自由に育てられたと思う。今の若い子たちはインターネット・ポルノなど、性の“パフォーマンス”に執着しすぎて追いつめられているような気がする。本来、性はビジュアルだけじゃなくハートの問題。他人と話したり、触れ合ったり、通じ合うことが大事だと思う。映画の中で、『とりあえず試してみなさいよ。あなたが男に恋したらゲイだし、女の子に恋したらストレート』というセリフがあるんだけど、シリアスに悩むことなんてひとつもないんだよ」。

不機嫌なママにメルシィ!」は9月27日より公開。

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