手紙で育む愛を繊細に描くインド映画「めぐり逢わせのお弁当」監督に聞く
2014年8月8日 10:00
[映画.com ニュース]2013年の第66回カンヌ映画祭批評家週間で観客賞を受賞、その後フランスをはじめヨーロッパでインド映画最大の興行収入を打ち立て、アメリカでも2014年の外国語映画で最高の興行成績を記録しているリテーシュ・バトラ監督の長編デビュー作「めぐり逢わせのお弁当」が、8月9日に公開される。インドならではの弁当配達を題材にし、男女が手紙で静かに熱く心を通わせる模様を描いた恋愛ドラマだ。
自分に関心のない夫との夫婦仲に悩む主婦のイラと、配偶者を亡くし、早期退職を控えるサージャン。間違って配送される確率は600万分の1といわれ、契約家庭から受け取った弁当をオフィスに届ける「ダッバーワーラー」と呼ばれるインドの宅配システムで、まさかの誤配達が孤独なふたりを結びつける。歌と踊りで盛り上げる典型的なボリウッド映画ではなく、落ち着いたトーンの映像で大人の男女の密かな恋心を描き出すとともに、インドならではの文化や生活を映し出していく。
「インドはいろいろな時代が同時に存在している国です。この映画では現代に忠実でありながら、かつての古きよき時代が同居しているのです」メールやSNSなどインターネットを使ったコミュニケーションが日常となった現在、ましてやIT大国として知られるインドで、手紙というアナログなツールを映画の題材に使った理由を明かす。
「サージャンとイラは古き良き時代にノスタルジーを持っているキャラクターです。同時に、彼は自分の過去に、彼女はうまくいかない結婚生活を象徴するかのような家という、自分の檻にとらわれています。そんな彼らだからこそ、電話番号やメールアドレスの交換をするタイプではないのです」と長年温めてきた主人公ふたりのキャラクター設定への思い入れを語る。
インド、フランス、ドイツ合作で、アメリカ人カメラマンを迎えた国際色豊かな現場では、クリエイティブな統制も、ファイナルカット権も持つ事ができたそうだ。「特にフランスやドイツの現場では、監督の声が一番強いのです。映画が大きな産業として成り立っているインドやハリウッド、香港はプロデューサーが強く、監督の声が反映されないケースも多いので、そういった意味でヨーロッパのプロデューサーと仕事ができてよかったです」と述懐。「外国のスタッフが映画の最初の観客なので、彼らの感想を聞きながら作品を作りこんでいくのも楽しかったです。これからもこのような製作形態をとりたいです」と更なる意欲を見せる。
カンヌプレミアの後、フランスで6カ月、アメリカでは4カ月のロングランを記録。「作品の成功も、多くの方に見ていただいたことも、大きな贈り物を受け取ったような経験です。世界中の方に深く感じるものがあったということが、幸せでした。今後の自分のキャリアにとっては、次の作品が作りやすくなると思います。だからといって、脚本の執筆が楽になるわけではないのですけれどね(笑)」と謙虚に喜びをかみ締めていた。
今回が初来日。日本映画では、小津安二郎監督の大ファンで、今年見て感動したのは「そして父になる」だと話す。影響を受けた監督はイングマール・ベルイマン、ルイ・マル、アッバス・キアロスタミら。自身の作風を表すような思慮深く穏やかな口調で、取材に応じてくれた。繊細なタッチで描かれたインド映画の新たな佳作は、日本の観客の心にもすんなりと染み入ることだろう。
「めぐり逢わせのお弁当」は8月9日、シネスイッチ銀座ほか全国公開。
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