知られざる北朝鮮映画界に密着した「シネマパラダイス★ピョンヤン」 監督が語る撮影の裏側
2014年3月7日 09:45
[映画.com ニュース] 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)では、映画は国家思想を人民に定着させる重要な“啓蒙ツール”だが、日本で北朝鮮の映画を見られる機会はめったにない。そんな知られざる北朝鮮映画界に密着したドキュメンタリー映画「シネマパラダイス★ピョンヤン」が、3月8日に公開される。来日した香港在住のドキュメンタリー映像作家ジェームス・ロン監督に、製作の経緯や撮影の裏側を聞いた。
故金正日総書記が大の映画好きであったことから、首都ピョンヤンには広大なオープンセットを有する朝鮮芸術映画撮影所もあり、数多くの映画が製作されている。2008年のピョンヤン国際映画祭に招待されたロン監督は、「ピョンヤンはミステリアスな都市でずっと行ってみたかった。北朝鮮でとても有名な映画『花を売る乙女』(1972)の女優に会い、冗談半分で『北朝鮮で映画を撮ってみたら?』と言われたんだ。それは面白そうだなと思い、すぐさま映画祭主催者に相談に行ったのが始まり」だそうで、約2年にわたり北朝鮮への取材を重ねてきた。
本作では主に、名門ピョンヤン演劇映画大学に通う2人の学生と、映画製作という“国家事業”に生涯を捧げる1人の映画監督にフォーカスした。撮影許可を得るにあたっては、「外出時は必ず案内員が同行すること」「撮影した映像の全てを毎日検閲に出すこと」という2つの条件が、ロン監督と共同監督のリン・リーに提示された。そんな厳しい撮影環境の中でロン監督は、「制約はもちろんあったけど、お互いをできるだけ知ろうと思った。そうしているうちに彼らは思想に洗脳されたロボットではなく、私たちと同じ人間であるということ。ただ、異なる環境下で暮らしているだけなんだということを改めて思い知ったんだ」と語る。
家族の反対を押し切り女優への道を進むユンミ、国民的俳優を両親に持つウンボム。彼らは平凡な人民というよりはむしろ特権階級の人々だが、それでも彼らの素顔はメディアで伝わってくる北朝鮮のイメージとは大きくかけ離れている。ロン監督も、「ユンミは両親の反対を押し切ってまで女優の道を選んだ人だから、周囲の反応をあまり気にしていない。素顔もとてもチャーミングだよね。一方のウンボムは、両親が有名な俳優なので期待も大きい。両親に続こうというプレッシャーもあるし、周囲にどう思われるかもすごく気にするんだ」とあくまで一個人として対象に迫り、個性を尊重した。
ユンミが自宅でピアノを弾きながら歌うシーンでは、「ポップソングのように聞こえたんだけど、後で歌の意味を調べてみたらやはりそこにも“将軍様”への敬意が込められていた。だけど彼女はそれをプロパガンダだとは思わず、何も考えず空気を吸うように歌っていた。それはもう自然反射のようなもので、果たしてそれを洗脳と呼ぶのかどうか。若い頃から思想を叩き込まれているから、やはり金正日総書記は彼らにとって神のような存在だと思う。例えば、クリスチャンはよく『神のご加護を!(God bless you)』と言うけれど、神を信じていない人にとってはとてもおかしく聞こえると思う。指導者は神様みたいな、宗教みたいなものなんだ。だけど彼女は、自分の夢に向かって進むとても自立した女性でもある」と単一的に定義できないものがある。
北朝鮮のように確固たるイメージが定着した国家に対し、ジャーナリストは先入観をぬぐい公平な視点を保つことが求められる。「とにかくオープンマインドでいることが大切。『本当にこんなことを信じてるの?』と思ってしまったとしても、簡単にジャッジしてはいけない。ジャッジしてしまえば、もうそれ以上学ぶことができないからね」と常に誠意を示した。また、「ドキュメンタリーにおいては、ストーリーは作るのではなく見つけるものだと再確認した。予測不可能に起こる出来事によって、アプローチの仕方や視点を変える。そうやって物語が変わっていけることが、ドキュメンタリーの最も大きな力だと思う」と自由な発想を保ち続けた。
そして、「北朝鮮を極端に描き、ジョークにする人もたくさんいる。だけど私は国の善悪ではなく、人間とはどのように関わり合って生きているのかを描きたかった。相手を理解しようとすること。自分の意見をもつことも大切だけど、相手に対する知識をもつこともとても大事だと思う」と語った。
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