リー・ダニエルズ監督「大統領の執事の涙」へ込めた希望とは?
2014年2月14日 13:25
[映画.com ニュース] 1950年代から1980年代にかけ、7人の米国大統領に仕えた黒人執事の実話を描いた映画「大統領の執事の涙」が2月15日より公開される。絶望の淵にいた黒人少女がひたむきに希望を見出していく「プレシャス」で一躍脚光を浴びたリー・ダニエルズ監督が、長年の月日と情熱をかけついに実現させた渾身(こんしん)作。来日したダニエルズ監督が、本作に込めた思いを語った。
奴隷として生まれた黒人少年セシル・ゲインズは、白人に父親を無惨に殺されたことをきっかけに1人で生きていく覚悟を決め、ホテルのボーイからやがてホワイトハウスの執事となる。キューバ危機、ケネディ暗殺、ベトナム戦争といった激動の時代を生き抜きながら、執事としての誇りを胸に7人の大統領の下で働き続けた。
まさしく激動の時代のアメリカを描いた物語であるが、同時に父と息子という普遍的な“親子の歴史”を描いた物語ともいえる。セシルの長男は、白人に仕える父親にことごとく反発し、反政府活動に身を投じる。一方の次男は、国のためにとベトナム戦争へ志願し、息子を案じる母親もまた時代の波に翻弄されていく。ダニエルズ監督は、「この映画のリサーチをしている時、僕はアメリカに対して怒りでいっぱいだった。だけど僕がこの映画を撮ろうと思ったのは、歴史に興味があったからではなく、この父と息子の物語に興味をもったからなんだ。僕自身、父親とは難しい関係だった。父はいつも怒りに満ちていて不幸そうだった。僕はなぜ父がそこまで世界に対して腹を立てているのか分からなかったけれど、今なら少し分かる気がする。親子の愛は人種や文化を超越したもの。それを描きたかったんだ」。
そんな親子の物語から、これまであまり語られることのなかったアメリカの隠された英雄たちの姿が浮き彫りにされていく。「KKK(白人至上主義を唱える団体)がフリーダム・ライダーズ(白人と黒人の混成グループが座席の分離を無視したバスで米深南部へ旅行する運動)のバスを襲うシーン。僕は『カット!』と声をかけたけれど、僕の声がみんな聞こえなくて、KKKの役者たちがバスを襲い続けたんだ。あれは本当に怖かったよ。そしてバスの中のみんなは、本当にヒーローだった。それにずっと公民権運動は黒人だけのものだと思っていけれど、実際にはこの運動に命をかけていた白人もいたんだ。そこでこの映画はただの親子の物語ではなく、信じたもののためならば死すら覚悟したヒーローたちの物語でもあると確信したんだ」と時代を変えた人々への畏敬の念を肌で感じたという。また、「マーティン・ルーサー・キング・ジュニア、マルコムX、ブラックパンサー党。みんなそれぞれにやり方があって、みんなそれぞれが英雄だった。市民権運動に正解も間違いもないんだ」と見解を述べた。
また30年という長い歴史を描くにあたり、ダニエルズ監督はできるだけフェアな視点を保つよう心がけたという。「フェアでいることは大変だけど、どの大統領にも人間性を見出そうとしたんだ。例えばレーガンは全くの悪人ではなかった。貧しい人から手紙をもらえば、こっそりと金を送っていた。人に善悪なんてないんだ。大統領であれ、みんな人間だということを忘れてはいけない」と既存のイメージにとらわれることなく、個性豊かな7人の大統領像を描き出した。
社会派監督としての名声も得ているダニエルズ監督だが、「僕の映画は政治的かもしれないけれど、自分が世界のどこにいて何を考えているか、それを無視することはできない。今こそ映画作家たちは立ち上がり、世界で何が起きているのかを見せるべきだと思う。僕は声なき人に“声”を与えたいし、人々が見たくない人々に“顔”を与えたいんだ。これからも、こういう物語が語り継がれるべきだと思う」と語気を強めた。
そして、「この作品を撮り終えた時、フロリダ州で何の罪も犯していない黒人青年トレイボン・マーティンくんが、白人に銃殺される事件が起きた。そしてどういうわけか犯人は無罪放免された。奴隷制があった1926年と同じことが今でも起きているような気がしたよ。なぜ僕はこの映画を希望で終えたのだろう。不思議だね」と神妙な面持ちで自身に問いかけた。
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