サウジアラビア初の長編映画 女性として果敢な挑戦をしたマンスール監督「それは映画への愛だけ」
2013年12月13日 18:15
[映画.com ニュース] 映画館の設置が法律で禁じられているサウジアラビア初の長編映画「少女は自転車にのって」が、12月14日に公開される。自転車をほしがる少女の物語を軸に、第2夫人を迎える夫への複雑な気持ちを隠せない母親の姿など、イスラム社会ならではの女性の立場も映し出している。しかし、ハイファ・アル=マンスール監督を映画製作に駆り立てた理由は、政治的な動機でも、男女が厳しく隔離された保守的な社会への抵抗でもなかった。
10歳のおてんば少女ワジダは、幼なじみの少年アブドゥラと自転車競走がしたいが、母親は女の子が自転車に乗ることに反対する。そんな時、学校でコーラン暗唱コンテストが行われることになり、ワジダはその賞金で自転車を買おうと一生懸命コーランの暗唱に取り組むようになる。
イスラム教の戒律が厳しいサウジアラビアで、しかも女性が商業映画を撮るというリスクを抱えながらメガホンをとったマンスール監督は「それは映画への愛だけです」ときっぱり。「決して政治的な行動をしたかったわけではなく、私は物語をつむぎたかっただけなのです」と話す。映画を撮りたいと思ったきっかけは、大学卒業後、石油会社に勤務し「とても男性社会で、その環境の中で自分が透明人間になったような気がした」こと。「自分らしいことをやりたいと思ったときに、自然な流れで大好きだった映画を作ろうとまず短編を撮りました」
全身を覆う黒い長衣の下にはジーンズとバスケットシューズ。多少の校則破りも恐れない勇敢な少女ワジダを主人公に決めた。「子どもの視点を通すことで自分が言いたいことをやわらかい形でつづりたかったのです。どうしても中東の作品で描かれる女性は無力な被害者のように描かれることが多いですが、それとは違うキャラクターを描きたかった。ワジダはハッピーですし、いろんな制限があってもそれを賢く抜け道を見つけて、自分のやりたいことに向かって成功する少女。エネルギーと生きることに満ちていて、そんな彼女を見て、サウジの女性を含め皆さんにインスピレーションを感じてほしい。落ち込むよりも、より自分の人生を楽しめるような作品にしたかったのです」
また、サウジアラビアでは公共の場での成人女性の行動が制限されるが、子どもであれば、表通りであっても自由に動き回れることも、主人公をワジダに決めた理由のひとつだそうで、監督自身はロケバンの中から役者に指示を出していたという。
「戦場でワルツを」を手がけたドイツのチームとの合作で、サウジ側はテレビ制作に従事するスタッフを雇った。「サウジ側の経験者が少ないので、主な部門でドイツ人がリーダーとなり、サウジのスタッフをペアでつけることで、スキルの交換を図りました。ドイツ人は勤勉だし、時間もきちんと守ってくれます。一方サウジの人間はもっとリラックスで、時間に遅れたりすることもあります。また、書くことよりも口伝えの文化なので最初の1週間は大変でしたが、その後はすばらしい友情が芽生えました。それが共同制作の醍醐味で、政治から一歩離れてお互いの文化を理解するということですから」
アカデミー賞外国語映画賞サウジアラビア代表をはじめ、これまで世界各国の映画祭で数々の賞を受賞しているが、気になるのはサウジアラビアの観客の反応だ。映画館がないため文化センターで2週間限定の上映会を行ったという。「反応はいろいろです。保守的な人は女が監督するなんて! と目くじらを立てる人もいますが、若い世代の人はワジダやワジダの母親にとても共感していたようで、自分たちの思いを代弁してくれていると話してくれました。サウジの若者は欧米に留学している人もたくさんいるので、公開された国で見てくれた人は、感激してTwitterで感想を寄せてくれました」
「少女は自転車にのって」は12月14日岩波ホールほか全国順次公開。