東京国際映画祭・椎名保ディレクター・ジェネラル、就任1年目を振り返る
2013年10月26日 10:00
[映画.com ニュース] 第26回東京国際映画祭のディレクター・ジェネラルに就任した椎名保氏は、「会期中に3つのヤマをつくる」をテーマに掲げた。2つはもちろん、オープニングとクロージング。残る3つ目は、これまでの土曜日開幕という定説を覆し平日の木曜日にオープニングを設定したことだ。翌金曜日の報道によって週末の注目度アップにつなげ、「そこはイメージ通り」と振り返る。加えて、長年の懸案である真の国際化に向けてもさまざまな新施策を敢行。総合的な評価はこれからだが、就任1年目。さらなる映画祭発展の礎は築けたという手応えをつかんでいる。
国際映画祭は、日曜日を最終日として会期を決めるのが標準的なスタイル。だが、椎名氏はその日程を変えるところから着手した。「木曜日をオープニングにすると、金曜日の新聞やワイドショーが取り上げる。そこで映画祭が始まった、やっているんだと認知されるわけです。それで土日を迎えられたという流れは、ほぼ思った通りにきています」
だが、国際映画祭の本質である国際化については、まだまだ道半ばだと主張する。「海外から東京が孤立してはいけない、ガラパゴス化してはいけないという意味においては、さらにやらなくちゃいけない。映画業界の人、マスコミ、一般も含め国内外の人が、東京に行って見たい、チェックしなければいけないという映画祭にならなければいけない」
今年は前年比131本増の1463本がエントリー。内容に関しては各部門の担当に一任したが、いかに観客が見たいかという「作品本位」に重点を置くよう指示した。「映画は作って半分、見てもらって半分だから作家性とか商業性ではなく、見たい映画か見たくない映画か、そこしかない。見たい映画を選んでくれ、そして選んだ意図をはっきりさせてくれていうことです」
東京での上映をきっかけに海外でも評価され、日本での公開はもちろん、その監督が次回作で東京に戻ってくるというのが理想の形といえる。そのために、長編2本目までの新人に限定したコンペ「アジアの未来」を創設、「日本映画・ある視点」も若手中心の「日本映画スプラッシュ」にリニューアルした。「今の日本には、監督の登竜門がないんです。だから意図的に若手を発掘して育てる場を提供する。東京に出品されたら、なんらかの形で海外にも行く。そして結局は東京を目指すことになればいい。そういう映画祭でありたいし、そこまでしなければいけない」
そのために両部門の審査員には、香港国際映画祭キュレーターのジェイコブ・ウォン、カンヌ映画祭代表補佐のクリスチャン・ジュンヌら審美眼の確かな人材を招へい。海外の映画祭との連携強化にも努めている。
そして、発信基地として世界に打って出そうとしている日本のコンテンツがアニメだ。今年は特別招待作品に「サカサマのパテマ」など3本を選び、れい明期の名匠・大藤信郎監督らの作品を特集する「日本アニメーションの先駆者(パイオニア)たち」も実施した。「もっと増やさなきゃいけないと思っているけれど、グリーンカーペットを歩いた時に『サカサマのパテマ』の吉浦康裕監督が『こんな経験ない。出品して良かった』と言ってくれたので、やって良かったとは思った。まだまだ時間はかかるが、いずれはアニメの部門があってもいいと思う」
就任1年目でさまざまな改革を断行したが、すべてが思い通りに進んだわけではない。達成感も「描いていたイメージの1割」と自己評価も手厳しい。「やろうとしていることに手をつけたくらい。周りは好意的にチャレンジと受け止めてくれて非常にありがたいけれど、まだ一歩ですね。今年はとりあえず、種まきですから」と先を見据えている。
今年は映画関係者から「盛り上がっているね」という話を頻繁に聞く。深夜に及ぶ上映に8割以上の観客が入っていることも多々あった。椎名氏によれば、主催するユニジャパン理事長の松竹・迫本淳一社長、実行委員長の東宝・島谷能成社長が積極的に協力してくれているという。自称「3S」と呼ぶトロイカ体制が確立し、来年以降の東京国際映画祭がさらなる進化を遂げることを期待したい。
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