宮沢和史、20年の月日を経て語る「島唄」への隠された思い
2013年3月29日 21:00
[映画.com ニュース] 1993年に発表され、今や世界中で歌われているロックバンド「THE BOOM」不動の名曲「島唄」が生まれた背景に迫る短編ドキュメンタリー「THE BOOM 島唄のものがたり」が、第5回沖縄国際映画祭の地域発信型映画として製作された。あれから20年という月日を経て、同曲の作詞・作曲を手がけたバンドのフロントマン・宮沢和史が「島唄」に込めた思いを改めて語った。
この20年間で100組近いアーティストにカバーされたスタンダードナンバー「島唄」だが、意外にも楽曲が生まれた背景や歌詞に込められた裏の意味は知られていない。それは、宮沢が「歌の内容や生まれたワケを本当は言うべきじゃない。こういう歌なのかなと、ひとりひとりが好きに想像してくれればいい」と、あえて語ってこなかったからだ。しかし、「『本当はこういう歌じゃないか?』という色々な解釈が出てきたので、一度説明した方がいいのかなと思い始めた」と口を開いた。
「沖縄民謡、三線の音にひかれて沖縄を好きになったけど、来てみたらそこには沖縄戦の爪痕がいっぱいあった。そこで『ひめゆり平和記念資料館』や地下壕を見学して回り、あまりにむごい戦争だったと知った。20万人近い人が亡くなり、そのうち9万人は一般人で、集団自決などもあったという。こんな希に見る悲劇が身近にあったことを、恥ずかしながら僕は知らなかった。だけど、僕みたいに知らない人がいっぱいいるんじゃないかと。伝えていかないといけないと思ったし、鎮魂の意味も込めて、そういう話を聞かせてくれた戦争で生き残った人たちに聞かせる歌を作りたかった」と語る。さらに、現在も続く米軍基地問題など、「沖縄の戦後問題はまだ解決していない。戦争の時にこのちっちゃい島が防波堤になり砦になってくれたから、日本は急ピッチで復興できた。いまだにツケをもってもらっているという事実は変わらない」と提起する。
「島唄」のイメージから、しばしば沖縄出身と間違われる宮沢だが「沖縄の人間でもないのに、沖縄の魂ともいえる大事な楽器を使って戦争のことを歌うってどうかなとも思った。だけどあの時は、情熱と伝えなきゃいけないという思いでひたすら突っ走った。何も知らなかったから自分の勢いに忠実に歌にすることができたけど、今あの歌を書けと言われてもできない」と胸中を明かす。そして、「ものすごいエネルギーがあったからこそ賛否両論を巻き起こしたし、一部の人からはおしかりや批判もあった。ロックバンドが弾けもしないのに三線を振り回してと。だけど、沖縄とともに活動していけばいつか理解してもらえるだろうなと思ったし、そうしていこうと思っていた。そして20年間深くかかわってきた今では、少しは理解してもらえたと思う」と明かす。
沖縄民謡は高齢化が進んでおり、先日も重鎮の登川誠仁氏が逝去したばかり。宮沢は彼らの楽譜だけでは伝えきれない歌心を残そうと、県内の多くの民謡歌手たちの歌を収録する試みに挑戦しながら、三線の棹の原材料である黒木(くるち)を毎年植樹し、100年かけて育てるプロジェクト「くるちの杜 プロジェクト in 読谷」も発足させた。子どもたちと植樹を行い、「みんな、学校の笛をカバンにさすような感じで三味線をもっていて、こんなに三線を習っている子がいるんだってうれしかった。それが県産だったら格好良いなって。他の地域にも広げていきたいし、去年10月20日を“くるちの日”としてお祭りをしたので、これからも毎年伸びた苗を見ながらお酒を飲みたい」と夢は膨らむ。
映画のエンディングでは、20年ぶりに新たな気持ちで「島唄」を歌い上げる宮沢と、これからの琉球民謡を担っていく子どもたちとのコラボレーションが見られる。宮沢は、「『島唄』が当たり前ってことがうれしい。曲を出した当初は物議を醸したけど、今の子どもたちからしたら『あそこに昔から生えてる木でしょ』って感じ。それが心地良い。誰が作ったかなんて子どもたちは知らないけど、そういう歌を僕は作りたかった。作った人なんてどうでもいい。でも残ってくれる歌を作れたことが誇らしいし、だからこそ20周年に『あとは頼むぞ』って子どもたちに手渡した感じもする」と目を細めていた。
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