内田伸輝監督&山崎真実、「さまよう獣」で飛び込んだ新境地
2013年2月1日 16:00
[映画.com ニュース] 長編劇映画第2作「ふゆの獣」(2010)で、第11回東京フィルメックス最優秀作品賞を受賞した俊英・内田伸輝監督。初の商業作品となる「さまよう獣」は、女優の山崎真実を主演に迎え、恋愛依存から脱却しようともがく女性の姿をとらえた。作品を完成させた今、ともに“挑戦”が多かったという内田監督と山崎は、何を思うのだろうか。
山崎は「ペルソナ」(07)、「シーサイドモーテル」(10)などで演じた奇抜なイメージを一新し、等身大の女性キヨミを演じた。これまでにない役どころは、挑戦であり大きな魅力でもあったという。「流れている空気がすごくゆったりとしたイメージだけれど、内容はすごくハード。普通の女の子が一歩踏み出そうと試行錯誤していくお話なので、主人公が成長する過程を全体で演じなければいけない。今まで明るい役が多かったので、興味を感じました」と脚本にひきつけられた。
キヨミは、相手に合わせて自分を変える世渡り上手な現代人。同時に、そんな自分を変えたいという葛藤(かっとう)を抱えた難解な役どころだ。内田監督が真面目だという言う通り、山崎は個性的な共演陣のなかで、“普通の女の子”というキャラクターに真正面からぶつかった。「『お芝居はお芝居、自分は自分』だと思っていたので、お芝居するときに役の性格に似るということはあまりなかったんですね。でも、キヨミという役は葛藤が多い役だったので、最初から最後まで気を抜く場所がなかったんです。大事にしながらやらないと役がつかめないという思いがあったので、考えてそうしたわけではないけれど、みなさんとは少し距離を置いて撮影していた気がします。考えすぎちゃうと固まっちゃうタイプなので、あまり考え過ぎずにそのときの気持ちでやりたい」と自らを預けた。
内田監督は、これまでの即興性を重視したドキュメンタリータッチの演出から、カメラアングル、セリフまで物語性が色濃く出た作品づくりに挑んだ。「今までは手持ちカメラでの即興撮影がほとんどだったんですけど、今回はあえてそういうものを取っ払っいました。映像はフィックスで、(セリフも)基本的には台本通りに進めていこうと決めていました。フィックスで撮るってすごく楽しい(笑)。アングルをひとつひとつ決めていって、丁重に映画を紡いでいく感覚がありました」。内田監督の試みは、田舎の匂いが立ち込める空気を見事に閉じ込めた。
内田監督はドキュメンタリー映画「えてがみ」(02)で長編デビュー、その後、初の長編劇映画「かざあな」(07)、「ふゆの獣」などの自主映画で、「些細な日常のなかにうごめく人間関係」を見つめてきた。そして、11年3月11日に発生した東日本大震災を機に、内田監督のなかで“日常”が持つ意味が変化し、その重要性にフォーカスするようになった。「(震災後)引っかかって心に残っていたものがありました。今まで映画のなかでの日常は、退屈の象徴みたいなものだったんですが、震災以降は大切なものになっていくと感じていて、大切な日常を映画のなかで見せていこうと思いました」と心のなかでくすぶっていた思いを作品にぶつけた。