フィリップ・ガレルの愛の世界を専門家がラカンの視点で語る
2012年7月15日 10:00
[映画.com ニュース] ヌーベルバーグの継承者として知られるフィリップ・ガレル監督の「愛の残像」公開を記念し7月14日、精神分析を中心とするヨーロッパ思想史を専門に東京大学で教鞭をとる原和之氏が「鏡から枠へ、ラカンの視点でみるガレル映画の視覚装置」と題した観客向け講義を行った。
若い写真家フランソワと女優で人妻のキャロルが、出会って瞬く間に激しい恋に落ち、その後、キャロルは心を病んでしまう。悲恋を美しいモノクロームの映像で描いた本作は、鏡や枠が効果的に使われた演出シーンが数多くあり、フランスの精神分析家ジャック・ラカンが唱えた「鏡像段階」を出発点に、原氏は「枠」の観点から作品を語った。
精神分析理論の観点で一番重要なのは、「人間の他人との関係をどういったものとして捉えるかということ」で、「他者のわからなさが一番鮮明に現れてくるのが男性と女性の関係で、ラカンは(男女が)数学の比のような調和的関係になることは決してないと言っています」という。
他者との関係を理解するために、人間は相手を自分の似姿(=イメージ)としてとらえるというラカンの議論を紹介し、ある一定の年齢に達した子どもが鏡に映る自分や他人の姿を見ながら、鏡像と自分を同一視し、自己の身体的統一感を覚えて喜ぶ「鏡像段階」に触れ、イメージを媒介とした他者との関係の成立と、イメージは人間に救済をもたらすということを説明する。
また、不安定なイメージが人間にどのように機能するかという説明として、例えば壁の窓の外に見えるものは現実であると考えるが、だまし絵である可能性もあるという「枠」の装置を、ラカンはイメージをリアル(現実)に転換するものとして議論を行っている。この議論をふまえて原氏は本作でのフランソワとキャロルの関係が、枠の機能を果たしていると話す。
精神分析の中では「“女性が何を欲望しているのかは誰も答えたことのない謎である”、“女性のセクシャリティは暗黒大陸である”という言い方で謎の側面が強調されている。男性と女性の中には理解不能な他者への関係の最も極端な姿が見いだされている」そうで、「フランソワは写真家として写真のフレームを媒介にし、写真を枠づけて定着するということを繰り返し行っており、キャロルとフランソワの関係は、常にイメージを媒介としている。キャロルという謎の存在を絶えずイメージの領域に送り込み、こういう形でフランソワは女性とかかわってきたと言うことができる。女性という捉えきれない存在を一個のイメージに定着して、関係の解決を試みていると言える」と分析。
そして、劇中の「我々は眠る民だ」というセリフを取り上げ「枠という装置を媒介にしながらイメージとリアルの世界を様々な形で行き来するこの作品のあり方を要約しているのでは」とまとめた。
「愛の残像」はシアター・イメージフォーラムで公開中。
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