堤幸彦監督、最新作に登場する潔癖症の主婦は自らの分身
2012年5月8日 13:23
空き缶集めを生業(なりわい)にして公園で暮らす路上生活者たちと、それとは対照的にちり一つない家で生活する一家の姿から現代社会の歪みを鋭く描き出す。
隅田川の川沿いに暮らす人々について書かれた週刊誌の記事を目にしたことをきっかけに、堤監督は5年もの構想期間を経て本作の映画化にこぎつけた。「いろんな企画が出ては消えていくもので、実際に撮っている作品の10倍の数の企画がありますが、この作品は記事を見つけ実際にモデルとなった方の隅田川沿いのブルーシートのお宅にお邪魔しインタビューもした。自分にとって絶対に捨てられない企画だった」と執念を明かす。「自分の住んでいるところから遠くないところに、私たちと全く違う強さを持った生活を営んでいる人がいるという驚きがずっと冷めず、なんとしても作品に残したかった」と言葉に力を込めた。
前田プロデューサーは、出会った頃に堤監督に言われた「僕はコマーシャリズム(商業的)の監督として期待に応えないといけない責任がある。でも、50代半ばを過ぎて自分の中に『あれがやりたい』という気持ちが出てきた。やり残したことを整理して、やっていかないといけない時期にあるのではないかと思う」という言葉を紹介。改めてこの作品への強い思いを明かした。
「MY HOUSE」というタイトルについて、堤監督は「本当は『0円生活』だったんですが、ある日、突然わいてきた」と説明。「歌のタイトルにもあり、ポカンと晴れた日のイメージがあっていいかなと思いました。この語感に対し映画の内容はシリアス。タイトルと内容が全く違うという皮肉を込めています」と語った。
また物語の舞台は包み監督の出身地である愛知・名古屋で、撮影も名古屋で行われた。その理由は「まずひとつには、ホームレスに対して政策が厳しい街であるということ。万博の際にホームレスを一掃しようとして軋轢(あつれき)があり、この映画にピッタリと思いました」と明かした。さらにもうひとつの理由を、昔から教育や進学に対する熱が高い街であることを挙げ「今はどうか分かりませんが、私がいた頃は“学歴階級社会”でした。私はそこからはじき出された人間であり、その恨みも込めました(笑)」と明かし外国人記者たちの笑いを誘った。
公園で暮らす人々とは対照的に、マイホームで常に掃除に明け暮れる主婦(木村多江)や、ひたすら勉強に励み鬱屈した思いをため込んでいく子どもが描かれるが「あの潔癖症の主婦は私。特徴的に思えるかもしれませんが私にとって違和感はない」という。さらに、「あの中学生も私の狭い見聞ではありますが、典型的な日本人の一部。普通じゃないと思えるかもしれませんが、僕の中で特徴的な人々をピックアップしたわけではないんです」とあくまで日本の現実を切り取ったことを強調した。
「MY HOUSE」は5月26日から公開。
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