西川美和監督、松たか子&阿部サダヲとの初タッグを述懐
2011年12月30日 15:30
[映画.com ニュース] 西川美和監督の最新作で、松たか子と阿部サダヲが初共演を果たした「夢売るふたり」の全ぼうが、撮影を終えた今をもってベールに包まれたままだ。火事ですべてを失い、結婚詐欺を再出発の手段に選んだ夫婦に扮した松と阿部の演技について、初タッグを組んだ西川監督が口を開いた。
撮影現場での主演ふたりは、西川組に初参加とは思えないほどに、どこまでも自然体だった。そんなふたりは、西川監督の演出に対して1度も聞き返してくることがなかったという。「別にイエスマンというわけではないのだけれど、何を要求しても答えはいつも『はい』とだけ。すごく不思議な存在の俳優だと思います。何を考えているのか、何を疑問に思っているのか、まったく分からない状態でクランクアップを迎えてしまいました」
これまで男性を主役に据えてきた西川監督にとっては、初めて夫婦、特に妻の視点を強く意識した意欲作。それだけに、この組み合わせはキャスティングの妙といえる。「特別なことをしているわけではないのに、とにかくふたりのありようがとても良かったんです」と語るように、まるで長年にわたり寄り添ってきたのかと思うほど、溶け合う“間合い”が混在。だからこそ、「脂の抜けた距離感、仲の良さというのがあったし、夫婦ができていくなあと感じた」と思わせるほどの安心感を、周囲に覚えさせた。
結婚詐欺をテーマに描くと方向性を定めたとき、被害にあった女性たちに話を聞く機会はあったが、加害者側の話を聞こうとは思わなかったという。「『やっていたよ!』という人なんて、そうそう見つかるものではないですよね。ただ、どうやってお金を引き出すか……という詐欺のノウハウの映画ではなかったので、仮に聞いていたらそちらに縛られる可能性もありますよね。それよりも、なぜお金を出しちゃうのか、出しちゃうときの気持ちはどうだったのか、という方が重要でしたね」と振り返る。
劇中に登場する、だまされてしまう女性たちの職業もさまざま。詳細は明かせないが、これまで描かれることのなかった“市井”の人々のリアルな心情が浮かび上がってくる。「35年以上も女をやっているので、これまで生きてきたなかでの情報はあります。今回は、映画のスクリーンのなかで、あまりスポットライトが当てられることのなかった職業の人を出してみようと思った」と静かではありながらも確信めいた口調で、女性たちへと思いを馳せた。
「夢売るふたり」は、2012年秋に全国で公開。