「脳ミソなんかクソ食らえ!」横浜聡子監督「ウルトラミラクルラブストーリー」
2009年6月5日 12:00
[映画.com ニュース] 07年末に自主映画デビュー作「ジャーマン+雨」で日本監督協会新人賞を獲得、ついに日本にも本格クレイジー映画を撮れる監督が出現したとあまねく日本のクリエーターたちを震撼させた横浜聡子が、第2作目にして本格商業映画「ウルトラミラクルラブストーリー」を完成させた。全編出演者のセリフのほぼ3分の1しか理解できないディープな青森弁には字幕もなく、いきなり商業映画のタブー破りかと思いきや、なんともその青森弁が音楽のように心地よい。
「商業映画だからと安易にハードルを低くするというのは観客に失礼だと思うんです。むしろ食いついて欲しいという気持ちですね。主役をネイティブな青森弁をしゃべれる松山ケンイチさんにお願いしましたが、私がイメージしていた陽人(主人公)は小柄で瞬発力のある凶暴な感じだったんですが、松山さんは大きくて体をもてあましているような不思議なふくらみのある陽人を生んでくれました。『ジャーマン+雨』では、自己投影としての主人公の勢いが映画を支えていました。今回はプロの役者さんたちのおかげで客観的に“ヒト”としてみることができて、勢いを超えたひとつひとつのアイデアをうまく繋げることができたと自負しています」
常人よりは脳の発育が遅れた主人公は、畑仕事で使う農薬をかぶると頭がスッキリすることに気づき、想いを寄せる幼稚園の先生に認められたいばかりに農薬をかぶり続ける。こんな破天荒なシーンが重なるうちに“人間”の枠を超えていく主人公の振る舞いに観客は思わずひきずり込まれ、悲劇的な感情が不思議と健康な希望にと変わってゆく。
「作品が完成して、人からこの映画はファンタジーですねと言われて、そのことに初めて気づきました。作っている時は無意識でした。自分にとってのテーマは物事に先入観を持たない子供のような目線を持った『陽人』という奇跡的な人物を作ること。そして辛く悲しいことでもその目線から見ると笑いに変わってしまうような人物に起こる物語を語ることだったんです。今の世の中は“脳ブーム”らしいですが、『脳ミソなんかクソ食らえ!』といいたいですね」
「ウルトラミラクルラブストーリー」は6月6日公開。