巨匠コスタ・ガブラスが新作「西のエデン」で描いた現代ヨーロッパの実情
2009年3月19日 12:00
[映画.com ニュース] フランス映画祭2009のため、「Z」や「ミッシング」で知られる巨匠コスタ・ガブラスが来日した。クロージング作品「西のエデン」は、ヨーロッパへ不法入国した移民の壮大な冒険が描かれたもの。古代ギリシャの叙事詩「オデュッセイア」の現代版とも称されているが、自身ギリシャ移民であることからこの題材を選んだのか。しかし結末は異なるが……。
「いえ、『オデュッセイア』はこの作品のメタファーの中に多少入っている程度で、描きたかったのは移民の冒険です。誰も生まれる場所を選ぶことはできないが、生まれた社会で生き続けることとは違う未来を選択することはできる。そんな悲惨な状況から抜け出そうと努力する移民の逞しさを題材にしたいと長年思っていたのです」
主人公がヨーロッパ各国を旅しさまざまな人に出会う背景には、現代のグローバル化したEUの諸問題が詰まっている。出会う人々が単なる親切心で主人公を助けたならホスピタリティの物語になっていただろうが、彼らは多かれ少なかれお互いに必要としあう。その関係を通して法的にはよそ者だった彼が、実質的にはどんどんヨーロッパの一部となっていく。
「確かに一方的ではない、交換の関係が成立していますね。例えば夫のジャケットをあげた女性は自分も満足しているだろうし、亡くなった夫もたぶん喜んだだろうという意味で、記憶に対してもプレゼントしている。私が嫌いなのは、キリスト教的な慈善は義務であるという考え方。人と人の間に生まれるコミュニケーションこそが重要なのです」
そしてそれこそが移民問題の核となる。ところで旅の先々で、主人公の後ろには常に何かを撮影している人々が映り込んでいるが、あの意味するところは?
「あれはTVの撮影隊です。近年TV局が急増して、ジャーナリストが至るところで刺激的なものを探している。TVが社会のいたるところにいる、というのも現代ヨーロッパの象徴の一つだと思い、入れました」
ユートピアを求める青年の冒険を見ながら、現代ヨーロッパの実情を知るユニークな作品である。